生体関連化学の分野では、生命を作り出す分子、細胞、さらには生命体について化学的に研究を進めています。例えば、タンパク質やDNAを化学的に合成し、化学的に修飾して、さらには化学的に設計した分子を用いて制御するなどという研究をしています。その結果として、様々な細胞内での反応や病気などに、どのような分子がどのように関与して、どのようにして機能するのか、などが明らかになります。得られた結果から、細胞を機能や状態を制御することも可能になり、病気の治療薬の開発にもつながります。
私の研究は、主に核酸とそれに関連する物質の設計で、研究室の名前は「生体分子設計化学研究室」です。核酸の構造を思うままに変化させたりすることで、様々な疾患や生体反応を制御することを試みています。例えば、細胞のがん化は、染色体末端の「テロメア」と呼ばれる部分と密接に関係があるといわれています。その構造をコントロールしたり、その構造と結合して光ったり切断したりできる分子の設計も行っています。
今後のがん治療薬、早期診断にも
生命の設計図は、二重らせん構造を形成するDNAです。写真は、甲南大学フロンティアサイエンス学部に設置されている世界最大級のDNAの二重らせん構造の模型で、実物を正確に10億倍に拡大したものです。実物のDNAは、直径が2ナノメートル、長さがヒトでは2メートルにも達する、大変細くて長い糸のような形状をしています。先に書いたテロメアは、その端っこの部分です。テロメアをはじめとして、ヒトの染色体では30万ケ所以上で、DNAが二重らせん構造以外の特殊な構造を形成する可能性があり、がんをはじめとする様々な疾患で、重要な役割を果たすことがわかってきています。私たちの研究室では、このDNAの特殊な構造を標的にした分子を設計開発しています。学内、国内、海外の有機合成化学や細胞生物学などの研究者と幅広く連携して、自分で設計した分子を用いて、細胞や生命体そのものを制御することを目指しています。
例えば、同じ学部の腫瘍分子生物学研究室との共同研究では、がんに関係する遺伝子が形成する特殊な構造に結合し、光照射で破壊することができる、がん治療薬「分子標的型光線力学療法」の開発に取り組んでいます。この成果は、国内外の数十の新聞紙やウェブサイトなどでも紹介されています。このDNAの特殊な構造は、がんだけではなく、脳の疾患やウイルスの感染でも重要なことがわかってきており、設計した分子を様々な病気の治療や診断に役立てたいと考えています。
学部建物内に設置されている世界最大級のDNA二重らせん構造の模型。細胞の中にある本物を正確に10億倍にしたもので、直径2メートル長さ20メートル超、数年前までギネスブックに掲載されていました。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→食品、化学品、医薬品メーカー(大学院生)
- ●主な職種は→研究・開発職(大学院生)、企画・技術営業(学部生)
- ●業務の特徴は→問題を自分で見つけて解決方法を提示することが必要ではないかと思っています。
分野はどう活かされる?
研究には、
調査:周辺分野の周到な調査
目標(問題)提起:自分が目指すこと、その問題の全体の中での意義の明確化
計画立案:目標達成のために必要な具体的な方法と期間の設定
報告(公開):学会発表や論文発表として成果を公開する
という4つのステップがあると思います。これを繰り返すことで、研究が進展します。このプロセスは、多くの仕事と同じであると思います。研究室で学んだ研究の進め方は、社会に出てからの業務遂行の礎となります。そのように、自ら行動することが求められる職種に就く学生が多いと思います。
研究は、知的好奇心をとことん探求することだと思います。興味があることや好きなことを見つけることができれば、誰でもそれに集中し、各々の才能を開花させることができるはずです。中学や高校で学ぶ理科の内容でさえも、「とことん調べてみるとよくわかっていない」ことがたくさんあります。普段の学びや見聞きすることに対して、「なぜそうなるのか」と疑問を持ち、納得するまでとことん調べてみることで、誰でも研究者としての第一歩を踏み出せると思います。
「人格の修養と健康の増進を重んじ、個性を尊重して各人の天賦の特性を啓発する人物教育の率先」という創立者の教育理念のもと、甲南大学は100年を超える歴史の中で、ミディアムサイズの総合大学として少人数教育に注力することで、学生の皆さんそれぞれが持つ才能(天賦の特性)を引き出す取り組みを進めてきました。
甲南大学で最も新しく設立されたフロンティアサイエンス学部には、学生の個性を伸ばす特徴が充実しています。例えば、1学年45名の入学定員に対して専任教員14名が指導する徹底した“少人数教育”、各々に専用デスクがある学びの拠点“マイラボ”、遺伝子組換など高度な研究技術を習得できる“学生実験”、専門書がずらりと並ぶ地球を象った独創的な“図書室”、3年生から開始する“卒業研究”など、「研究を学ぶ」と「研究で学ぶ」を可能にする様々な仕組みを用意しています。
また、日本最大のバイオメディカル集積拠点である神戸医療産業都市に位置しており、周辺の研究機関やバイオベンチャーと連携しながら、基礎から実用化までの幅広い教育と研究を進めています。
研究室での実験風景

興味がわいたら~先生おすすめ本
実感する化学
A Project of the American Chemical Society
身の回りの様々な科学とその根本が、わかりやすく記されています。大学生の教科書として書かれていますが、従来の教科書と異なり、生活や環境問題に関わる化学として、(1)空気の汚染、(2)オゾン層破壊、(3)気候変動、(4)エネルギー問題、(5)水問題、(6)酸性雨、(7)原子力発電、(8)各種電池、(9)プラスチック、(10)薬、(11)栄養、(12)遺伝子組換えと生命に関わる分子という12 章にまとめられています。「生態関連化学」は生命の根本を理解しようとする学問領域ですが、本書からは、そのような事象の具体例と方法もわかります。 (廣瀬千秋:訳/エヌ・ティー・エス)