医薬品のようにリスクを伴う商品には、成分や使用上の注意などが表示されていますが、消費者はそれらをあまり読みません。読まない理由の一つは難しくてわかりにくいからでないかと考え、一般消費者にもわかりやすい表記方法のデザインについて研究を進めています。しかし、注意書きを読まないのは、自分自身でリスクを管理しようとせず、人任せにしてしまう、私たちの思考の心理的なクセにも問題がありそうです。
このような人間の持っているより深い心理学的な問題について、私はデザインと消費者心理学の観点から詳しく調べています。医薬品の例で言えば、人は医薬品を選ぶときに、ブランドやロゴなどの「一目でわかるシンボル」に過度に依存しがちであり、成分などの詳細な内容を十分に吟味していないことを、明らかにしました。そして、より情報を得やすい医薬品外箱・添付文書・医薬品販売サイトのデザインについて検討したり、お店でのお客さんの行動を分析し、その結果を反映したわかりやすい配置棚、タブレットなどを使った情報提供などを検討したりしています。研究が進むことによって、自分で表示をよく読んで自分にあった商品を選べる「賢い消費者」の養成が期待できると思います。
ポケモンショックはどうして起きた? 映像情報の「快」「不快」の研究
約20年前、テレビアニメ「ポケットモンスター」を見た多くの児童が、光過敏性発作を引き起こし、体調不良を訴え、病院に搬送されるという事件が起きました。私は、こうした画像や映像に含まれる快情報・不快情報についても、研究を進めています。映像技術がものすごいスピードで進歩している一方で、どのような映像が私たちに強い不快感をもたらすかについてはまだあまりよくわかっていません。
このため、私たちは様々な映像を、心理学的な分析手法や画像解析技術を用いて詳しく分析し、どのような映像が不快感をもたらすかについて分析しています。快・不快情報の研究は、ポケモン事件のような映像による不慮の事故を予防するのに役立つと考えられます。また、副産物として、映像の何が快感をもたらすかがわかれば、ピカソなどの名画に隠れた特徴とか、食品をおいしく見せるための技術が何かとかを、見つけられるかもしれませんね。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→広告、教育、電器、サービスなど
- ●主な職種は→デザイン職、営業職、事務職、研究開発職
分野はどう活かされる?
デザインと心理学の研究を活かして、鉄道の路線図のデザインを行っている人、デザインと消費者心理学の研究を活かして、広告デザインの仕事をしている人、映像評価の研究を活かして、電機メーカーで新しい映像表示媒体の評価を行っている人がいます。博士号を取得して大学教員・研究職となった人もいます。
新幹線、自動車、電化製品、文房具、包装、案内標識など、日本のデザインのすばらしさは私たちの地道な研究によって支えられています。デザイン学は「よいデザインとは何か」について様々な観点から掘り下げていく学問ですが、究極的には人間と環境の関係や、人間そのものの理解を目指しています。高校生の皆さんにも、デザイン学にぜひ興味を持っていただき、ともに学んでいくことを願っています。
筑波大学は学部・研究分野の壁や、国の壁のない、ボーダーレスな大学であるところが特徴です。