身の回りのメディアに着目し、新たなメディアを作ったり、既にあるメディアを再発見したりすることで、そこから新たな芸術を生み出す「メディアアート」が私の制作研究対象です。その一例が「バイオメディア・アート」です。
近年、クローン技術や人工細胞生成技術、ゲノム解析技術といった生物工学が飛躍的に発展しています。こうした技術は、人間とその文化をどのように変えていくのでしょうか。バイオメディア・アートとは、生物や細胞、遺伝子といった生命を構成する物質をメディアと捉え、その社会の中でのありかたを批判的に捉えながら、そこに潜む新たな芸術を探索しようとする試みです。
20世紀にはコンピュータという新しいメディアが登場しました。そして21世紀になると、このコンピュータによって編集、合成される生物という、新たなメディアが生まれました。バイオメディア・アートは、これまでの科学と技術、そして文化の歴史を総動員して、「生命とは何か」「人間とは何か」と問い直すための芸術です。現在私は、卒業生でIAMAS(情報科学芸術大学院大学)教員のホアン・マヌエル・カストロさんと共にプロト・エイリアン(宇宙人をつくる)プロジェクトに取り組んでいます。
超小型芸術衛星を打ち上げた「ARTSAT」プロジェクト。2号機は深宇宙彫刻
2010年に東京大学とのコラボレーションで始まった「ARTSAT:衛星芸術プロジェクト」は、2014年、10cm角、重量わずか2kg足らずの超小型芸術衛星をH2Aロケットで打ち上げました。この衛星はその後、約半年にわたって地球の周りを周回し、詩や音楽の生成など、宇宙空間における芸術ミッションを実行しました。
さらに同年12月には、「はやぶさ2」との相乗りで、3Dプリンタで制作した渦巻型の彫刻を、太陽を周回する人工惑星軌道に投入しました。札幌国際芸術祭(SIAF2017)ではSIAFラボとの協働で、モエレ沼公園から高度30000mを越える成層圏気球を放出し、そのデータをもとにモエレ沼公園と宇宙をつなぐデータ彫刻を制作しました。
一般的な傾向は?
- ●主な職種は→アーティスト、クリエイター
- ●業務の特徴は→広くリサーチし、深く考え、たくさん作る
分野はどう活かされる?
技術の文化を考え、文化の技術を考える。
美術大学では、入学してから卒業、修了するまで常に「あなたはなぜそれを行うのか」を問われ続けます。その答えを、社会が必要としているからだとか、これまでそうしてきたからだとか、人のせいにしてはいけません。すでに歪み、壊れかけていた(ことが隠されていた)社会が、COVID-19によって顕になった今、生活や創作の至る所で「なぜ」を問いながら、自らの力でその答えを出し続けていくことが必要とされています。
理論(研究)と実践(創作)が深く結びついた、スタジオやアトリエを軸としたキャンパスと、教員や研究室のテーマを手伝ったり従ったりするのではなく、研究制作テーマを自分で選び、自分で決められるカリキュラムが特色です。
興味がわいたら~先生おすすめ本
スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。 未来を思索するためにデザインができること
アンソニー・ダン、フィオナ・レイビー
デザインというと、美しい形や色を与える、製品の仕様を設計する、あるいは、使いやすさを追究するといったことを指すと思う人が多いかもしれない。もちろん、それもデザインの役割の一部ではあるが、デザインにはもっと大きな、広い可能性がある。スペキュラティヴ・デザインとは、過去や未来ではなく、今、ここにないもの、でもあり得るものごとを考えるデザインである。そうすることで、今ここにある世界の別の可能性を提示する。本書では、アート・小説・イラスト・写真・映画などの様々な事例を通じて、この新たなデザイン観を紹介する。著者が教えてきたRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)の学生作品も豊富に紹介されている。 (久保田晃弘:監修、千葉敏生:翻訳/ビー・エヌ・エヌ新社)