生物の形とバイオメカニクス
Stephen A. Wainwright、訳:本川 達雄(東海大学出版会)
私たちが目にする生物は、なぜ“その形”となっているのでしょうか。形が存在する理由は、遺伝子の働きだけではありません。最終的にできあがった形が、動くことや食べることに必要であったり、環境に適していなくてはなりません。
この本は、バイオメカニクス(生物の形・運動・適応を力学的に読み解く学問)を通して、生物に見られる形の成り立ちを様々な事例を交えて紹介しています。
バイオメカニクスの世界は、なぜ生物の形に多様性が生まれたのか、どのように進化を遂げたのかを考える上でも、私たちにたくさんのヒントを与えてくれます。
無脊椎動物の形から進化の謎を解き明かす
化石から生活様式を見つける
太古の生物の痕跡である化石には、筋肉などの柔らかい部分が残っておらず、骨や殻などの硬い部分のみが保存されています。そのため、当時の生物がどのように生活していたのかを知るには、骨や殻の形から、生活様式につながる特徴を見つけ出す必要があります。
私たちに近い脊椎動物であれば、生きていた時の姿をなんとなく想像できます。しかし、虫や貝などの無脊椎動物ではどうでしょうか。化石でしか見つからない無脊椎動物の中には、動き方、エサの取り方、生きていた時の姿勢でさえ解明されていない種が無数に存在しています。
生物の形には機能美がある
私の研究では、約5億年間を通して劇的に繁栄・絶滅を繰り返してきた腕足動物と呼ばれる無脊椎動物を対象に、殻の形が持つ機能を復元し、進化の謎を解き明かすことを目指しています。
遊泳に適した形や陸上で走り回れる形があるように、生物の形は少なからず生態に適したものとなっています。現存する生物たちの生態を考えると、絶滅した生物の奇妙な形にも生きるための役割が見えてきます。
形の機能を力学的に捉えるバイオメカニクスを応用すると、化石となった生物の形に思いもよらない性能を備えた「機能美」が見えてくることもあります。
多様性を理解する鍵はバイオメカニクス
最強、最速のように、この世界の生物は必ずしもパラメータが1番の種だけではありません。ゲーム内で「環境Top Tier(その時点の環境で最強のクラス・層)」の情報があったとしても、すべてのプレイヤーが同じ武器を使わないのと似ています。
過去の生物の多様性を理解する鍵は、形の機能と当時の環境との関係を明らかにするバイオメカニクスにあると考えています。
生物の特徴をモノづくりに応用した科学技術はバイオミメティクス(生物模倣)と呼ばれます。バイオミメティクスは、現存する生物ばかりが参考になっているため、過去5億年間に生み出された化石デザインの応用は、まったく着手されていない課題といえます。
化石生物のバイオメカニクスは、人類以前に失われたテクノロジーを掘り起こすことを意味します。まるで漫画やアニメの世界に出てくる「禁断の研究」のようです。
古生物学に興味を持ったきっかけは、子供のころに見た恐竜の企画展示です。
大学に入ってから、自分が好きなのは恐竜ではなく、絶滅した生物の不思議な姿や形であることに気づきました。大学院修士課程に入ってからは、当時地質調査をしていた地域から大量に採集できる腕足動物に興味を持ち、形の機能から適応を考える機能形態学の研究を始めました。
多くの海洋生物が少なからず水流に影響された形になっていることに気づき、博士課程からは流体力学を軸にしたバイオメカニクスの研究を始めました。ちなみに、流体力学どころか、高校で物理を学んだことさえありません。
「パレオ・バイオメカニクスから読み解く腕足動物の形態進化と多様性」
◆主な業種
(1) 鉱業・資源
(2) 建設全般(土木・建築・都市)
◆主な職種
(1) 基礎・応用研究、先行開発
(2) 設計・開発
(3) コンサルタント(ビジネス系等)
◆学んだことはどう生きる?
近年、地質調査のできる学生が激減しており、業界を希望したほぼすべての学生が地質学に関わる企業で活躍しています。
地学は「地学」という独立した分野でなく、すべての理系科目を自然に応用する学問です。古生物学でも、地層ができる過程は物理学、化石生物の生態を考えるためには生物学を交えて考察します。
複合的な視点を取り入れて卒業研究に臨んだ学生は引く手あまたのようで、就職活動に困っている学生に出会ったことはありません。
私の在籍する新潟大学理学部地質科学プログラムは、フィールドワークのできる人材育成に力を入れています。
地質調査で取得したデータは世界の誰も知らない新知見になりますし、そこで採集した化石は自由に研究へ活用できます。化石を採集した地層は、環境の情報も含んでいます。地質調査に基づく古生物学の研究は、古環境と化石生物の生態を密に関連付けた研究にもなるのです。
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 考古学 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? スウェーデン。調査でよく訪れているのですが、急かされず、自分のペースで、自然を楽しみながら過ごす生活スタイルに憧れたからです。 |
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Q3.感動した/印象に残っている映画は? ランボー、ダイハード、パシフィックリム、沈黙の戦艦、暴走特急 |
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Q4.学生時代に/最近、熱中したゲームは? 学生時代:モンスターハンター2ndG、ファイナルファンタジー6-8、ドラゴンクエスト4-6。 |
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Q5.大学時代の部活・サークルは? 日本拳法部と管弦楽団 |