採血の代わりに、尿を使ってミトコンドリアDNAの異常を発見
遺伝子診断が難しいミトコンドリア病
ほとんどの遺伝性疾患は核DNAに変化が起こって発症しますが、ミトコンドリア病は、核DNAとミトコンドリアDNAどちらに異常が起こっても発症します。核DNA上には現在わかっているだけで400個近くの原因遺伝子が存在し、ミトコンドリアDNA上の塩基が1つ変わったり一部が欠けてしまっても発症するため、ミトコンドリア病の遺伝子診断は未だに困難です。
小児期では10人中4人が亡くなる病で早期診断が大切
私達は過去15年以上、おもに小児期に発症するミトコンドリア病の患者さんの遺伝子診断と、経過の追跡に関わってきました。その結果、小児期に発症するミトコンドリア病全体では10人中4人が亡くなり、特に心臓のミトコンドリアの働きが悪くなって心臓が正常に働かなくなるミトコンドリア心筋症という病気では、10人中8人近くが亡くなるという極めて生命予後の悪い病気であることがわかりました。
できるだけ早く原因遺伝子を見つけて診断を行い、治療を始めることが大切ですが、原因遺伝子が多いこと、さらにミトコンドリアDNAの異常は、症状が出ている臓器に多く生じるため、心筋症の患者さんでは心筋を取ってきて調べることが理想ですが、重篤な心筋症では状態が悪いため、体の外から針を刺して心筋を取ってくることが難しいことがしばしばあります。
赤ちゃんに針を刺さずに異常を診断する
私達は、尿の中のミトコンドリアDNAの異常の割合が、血液中よりも心臓でのミトコンドリアDNAの異常と良く相関することを発見しました。
遺伝性疾患の診断は、採血をして得た白血球 DNAを用いて行うのが一般的ですが、この発見によって、針を刺さずに、不要な尿を使ってミトコンドリア心筋症が診断できる可能性が示されました。生後すぐに具合が悪いお子さんの尿を使ってミトコンドリア病の診断を早く行うことができれば、早期に治療を開始でき、生命予後の改善につながるのではという目標を持って日々研究に取り組んでいます。
「非侵襲的検体を用いたミトコンドリア心筋症の新規診断法の確立」