形態・構造

動物の多様な繁殖戦略:サケやフグの産卵リズムと脳神経の関係を明らかに


安東宏徳 先生

新潟大学 佐渡自然共生科学センター臨海実験所/自然科学研究科 生命・食料科学専攻

どんなことを研究していますか?

サケは、大洋から川にかけて大きく変化する海洋環境に適応しながら回遊し、十分成熟した後に自分が生まれた母川に回帰し産卵します。また、クサフグは春から夏にかけて2週間に1回、新月と満月の日の満潮前に海岸の一角に集合し産卵します。このような産卵回遊は、フィールドにおける複合的な環境要因への適応として、さまざま生理機能や行動が連動して起こる生物現象です。私はこれまで、サケ科魚類やフグ科魚類などの回遊魚を研究対象として、動物の環境適応を調節する体のしくみについて研究してきました。

魚類は様々な産卵リズムを持っています。それは、光や温度などの環境要因と、脳の間脳という部位にある神経内分泌系から分泌される様々な神経ホルモンによって調節されていると考えられています。私はとりわけ、生殖リズムや季節繁殖を調節している脳神経機構を明らかにしようと取り組んでいます。そのためにクサフグを用いて、半月周性(2週間周期)の産卵リズムをきざむ生物時計が脳のどのような場所ではたらいているのか調べています。

生殖リズムや季節繁殖を調節している脳神経機構が明らかになれば、生殖機能不全の治療法の開発や、効率的な生物資源の生産や保全につながると考えています。

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研究対象であるクサフグを採集しているところ

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→薬品、食品、飲料、醸造、水産、畜産、農業、教育、博物館、水族館、商業、電機、IT、印刷など
  • ●主な職種は→研究、開発、プロパー、営業、公務員、教員など
分野はどう活かされる?

県公務員(水産)、薬品会社の研究員、食品会社の研究員、水族館の飼育員、高校や中学校の理科教員として活躍しています。

先生から、ひとこと

生命現象は調べれば調べるだけ、また新しい謎が出てきます。未知の領域に向かって歩んでいく好奇心と情熱、大胆さ、そして忍耐力を持って、一歩先に足を踏み出して、生命の不思議を探検する旅に出てみましょう。きっと新しい何かが見えてくるはずです。

先生の学部・学科はどんなとこ

新潟大学佐渡自然共生科学センター臨海実験所では、美しい海と豊かな生物相を持つ佐渡島において、海洋生物の多様性とその成り立ちについての研究を進めています。

理学科生物学プログラムでは、分子から細胞、個体レベルの生命現象を幅広く学ぶことができます。また、理学科フィールド科学人材育成プログラムは、理学部と農学部の教員が協働する教育プログラムで、生態学、環境動態、災害科学を中心に様々さまざまなフィールド科学を学ぶことができます。

先生の研究に挑戦しよう

・魚の光受容、色覚について観察してみよう
魚は視物質の種類が多く、色覚が多様です。また、種類や生息環境によって色覚は変わります。メダカや熱帯魚などを飼育して、いろいろな色の光をあてて光に反応するか調べてみてください。最近の研究では、季節によってメダカの色覚が変わるそうです。室内の一定の環境で飼育した魚と外で飼育した魚で比べると違いがあるかもしれません。

・魚の脳を見てみよう
哺乳類から魚類までの脊椎動物は発達した脳を持っています。ヒトや魚も脳の基本型(形や領域)は一緒です。新鮮な魚の頭部を手に入れることができたら、眼の後方部分の頭骨の中を開いて脳を見てみてください。複雑な形をした脳と神経を見ることができます。

興味がわいたら~先生おすすめ本

回遊・渡り ホルモンから見た生命現象と進化シリーズVI

安東宏徳、浦野明央:共編

動物は、生活史の中のさまざまな段階で、さまざまな理由により、さまざまな距離を移動する。鳥の渡りや魚の回遊などは、摂食、成長、生殖や体液浸透圧調節などの生理機能に密接に関連し、季節の移り変わりに応じて起きている。一方、予期せずに起こる生息環境の変化に対応するためにも動物は移動する。本書は、回遊と渡りに代表される“移動”のしくみをホルモンの側面から解明しようとする研究の成果を基に、水圏から陸、空のさまざまなフィールドで繰り広げられる動物の生き生きとした“移動”の様を紹介する。(出版社のサイトより) (裳華房)


冬眠の謎を解く

近藤宣昭

冬眠とは動物が活動力を極度に低くした状態で越冬することをいう。地球上では多種多様な生物が、それぞれの生息環境に適応しながら生きている。個体として統一のとれた生理機能や行動は、生物が生まれながらに持っている環境適応のしくみだが、冬眠はその一つ。カエル・イモリ・蛇などの変温動物に多いが、クマなどの冬ごもりは体温低下がわずかで、睡眠状態に近いという。この本は、低温で生きる体のひみつから始まり、冬眠は長寿をもたらすかどうか、人間は冬眠することができるかという可能性へと解説を進めていく。 (岩波新書)


小鳥はなぜ歌うのか

小西正一

著者は小鳥のさえずりに関する研究の第一人者で、フクロウの聴覚を観察することで動物行動学と大脳生理学を結合させたことで知られる。小鳥はなぜ鳴くのか。天敵の気配を察知すると警戒鳴き、縄張り争いから、恋のささやきまでエピソードを中心に説明し、小鳥の歌の研究からみた人間の心理まで話は及んでいる。 (岩波新書)


ウナギ 地球環境を語る魚

井田徹治

ウナギは海で生まれ淡水で育ちまた海水に戻って産卵して死ぬという不思議な生活史を持っている。またウナギは完全養殖が非常に難しい魚をして知られる。受精卵の人工孵化―仔魚―シラスウナギ(稚魚)―成魚と段階の中で、天然のシラスウナギは捕獲に頼るしかなく、輸入シラスウナギの確保をめぐったウナギビジネス問題が勃発する。またウナギはワシントン条約で規制されるようになり、そうなれば稚魚も輸出入は難しくなる。日本は世界のウナギの約7割を消費すると言われ、日本の食卓にも大きな影響が出る。ウナギをめぐる地球環境にまで及ぼす影響について述べた一冊だ。 (岩波新書)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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