言語学とは「ことば」を科学的に研究する学問領域ですが、その中の認知言語学と呼ばれる分野で研究を行っています。ことばはコミュニケーションの手段ですが、相手との関係で表現を変えたり、「たとえ」や「遠回りな言い回し」を使うなど微妙なニュアンスを込めて発話したりすることがあります。ある男性が「彼女は女神のようだ」と言ったとき、彼は恋をしているというメッセージを発信しているのかもしれません。こうした様々なことばに関する現象を通じて、「ことば」と「こころ」の関係に迫るのが認知言語学です。
「ことば」の理論を大量言語データで検証
近年はコンピュータやインターネットの発展で、大量のデータを集めたり、それらに統計的な処理を施したりすることが容易になりました。私の研究は、コンピュータなどにデータベース化されたコーパスという大規模な言語データに基づいて、認知言語学の理論を検証し、そこから得た知見を言語学習や言語教育に生かすことを目標にしています。
言語の理論は、英語や日本語といった個別の言語の特徴や共通点を記述したり予測したりするための体系ですが、その大部分は仮説に過ぎません。しかし、テクノロジーの進歩により、大量のデータを用いて仮説を検証することが次第に容易になってきました。そうした検証を経た理論は、外国語の学習や教育の方法を今までより良くする可能性があります。例えば、これまで教師の経験や勘に頼っていた部分に明確なデータに基づいた指針を与えることができるでしょう。
私の所属する同志社大学グローバル・コミュニケーション学部では、高度な語学力を磨くための、1年間の海外留学を必須としたカリキュラムの元に学部教育を行っています。3、4年次には専門的な内容を扱うゼミの授業があり、私のクラスでは認知科学および認知言語学に関する内容を扱っています。実践的な語学力と理論的知識をバランスよく備えることで、学生たちには真の意味での「コミュニケーションのプロフェッショナル」に育って欲しいと願っています。
興味がわいたら~先生おすすめ本
言語学の教室 哲学者と学ぶ認知言語学
野矢茂樹、西村義樹
「ことばの科学」言語学には、様々なアプローチがあり、その1つが「認知言語学」だ。認知言語学の入門書として、もっとも楽しくてためになるのが本書。1980年代から90年代にかけて大きく発展した認知言語学は比較的新しい領域だが、扱われるのは人類の歴史の中で長年論じられきた、「ことば」と「こころ」の問題。昨今はコンピュータによる統計処理が言語学に導入されるようになってきたが、認知言語学の理論自体は古くからある言語学上の、あるいは哲学上の理論や考え方に大きく根ざしている。本書からは、認知科学の一分野である認知言語学の「古くて新しい」特徴が見えてくるだろう。 (中公新書)