「身体教育学」とは、いわゆる体育、スポーツというイメージが強いかもしれません。しかしこの分野のテーマは幅広く、例えば、身体の感受性を開く感性教育なども扱います。
その中で私が追求しているのは、「身体知」です。身体知とは、日本語で「身体(からだ)が知っている」「身体でわかる」と表現されるような現象です。頭に宿る知性ではなく、身体に宿る知性と言えばわかりやすいでしょうか。この身体知を通して、人間の知覚、記憶、思考などの認知機能のしくみを理解することを目指しています。
他者理解に役立つ、自分自身の身体知
身体知とコミュニケーションの関係を理解するために、「描画コミュニケーション実験」と名づけた実験を行いました。
参加者は、2人1組のペアになって、無言で一緒に絵を描きながら、相手とコミュニケーションを取ることを試みます。録画映像を分析してみると、不思議なことに、お互いのジェスチャーと表情が鏡映しのようにマッチングしている場合ほど、「相手のことを理解できた」と互いに感じている度合いが高いことがわかりました。言葉を使わなくても、身体と身体の「間が合う」ような関係ができると、人は気持ちが通じ合うようです。
現代の日本社会には、身体に宿る知性をおろそかにすることで、人生の重要な判断を間違ってしまったり、対人関係で問題を起こしたり、心のバランスを崩している人が多く見受けられます。身体知を大切にする人が増えれば、そうした問題がずいぶん減って、皆さんにとってもっと生活しやすい社会になると思います。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→教育
- ●主な職種は→中学と高校の学校教員、臨床心理士など
分野はどう活かされる?
教員やカウンセラーなど、教育面での対人支援職に就く人が多いです。大学時代に学んだ身体の感受性が、現場での臨機応変な判断に活かされているようです。
17世紀以降の社会は、人間の心と身体を分離する傾向が強くなり、「身体に知性が宿る」という発想が徐々に弱くなった時代です。そういう問題意識から、私たち人間が「身体を取り戻す」ことの大切さについて、一緒に考えてみましょう。
私自身は、一般教養科目を担当していますので、東海大学のどの学部に入っても私の授業は受けることができます。身体と心の関係や、身体知に問題意識のある皆さんを歓迎します。大学院では、文学研究科文明研究専攻で講義と演習を担当しています。体育や教育ではなく、「文明」という非常に広い視野を持って、人間と身体のかかわりについて考えています。(東海大学は、「文明研究」の分野では日本で最も長い伝統を持つ大学のひとつです。)