世界には6000とも7000とも言われる数の言語があり、その多くが消失の危機に瀕していると言われています。便利な言語に乗り換えるのは当然と思っている人もいれば、自分たちの言語を守ろうとする人もいます。また、多言語国家では、政府がどの言語を教育や行政で用いるかは、その言語の将来に大きな影響を与えます。私が専門にしている言語政策研究では、こういった問題について様々な関与者の立場を踏まえて多角的な研究を行います。
ガリシア移民の経験から移住先で自身の言語・文化を保持する意義と困難について考える
私が研究対象にしているガリシア語という言語は、スペイン北西部で話されている少数言語です。この地域からは歴史的に多くの移民が、ラテンアメリカやヨーロッパの国々に渡りました。新天地で互助組織を形成し、社会進出を図りましたが、一方で自身の言語文化を守ろうという動きもありました。私は、出身国でも少数言語話者としてマイノリティだった彼らが、移住先でもマイノリティとなったという二重構造に着目し、彼らがどのような言語選択を行い、どのように言語文化を守っていったかを研究しています。
私たちは、ガリシア移民の経験や営みから、移民やその子どもたちが移住先社会に適応するうえで様々な困難に直面し、乗り越える必要があること知ることができます。必要に迫られ、受け入れ先の言語を学ぶ際に、自らの言語を子に伝えられなくなる場合もあります。しかし、そのことは自らのルーツを否定することにつながり、自信をもって社会で活躍できなくなる場合もあります。ルーツの言語を守ることの重要性やその難しさについても知ることができます。
それらを知ったうえで、教育の問題や、文化的背景の異なる人々が同じ社会で暮らしていくために必要な施策や心構えについて考えることが重要です。それらは、現在進行中のグローバル化の中、ますます活発に人が移動することで生じうる諸問題を考えることにもつながるでしょう。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→製造業、公務員、サービス業、教育・学習支援業
- ●主な職種は→総合職、教職員
- ●業務の特徴は→人と接する仕事
分野はどう活かされる?
中学・高校の外国語教員、メーカーや商社における海外勤務、公務員、研究者など様々な分野で言語・文化・異文化理解に関する知識を活かせます。
国語や英語、社会科の授業で学んだ知識は、相互に関連付けることで、言語と社会のつながりが理解できるでしょう。例えば、グローバル化は最近始まった現象ではなく、歴史を学べば、大航海時代にも、遣唐使の時代にも、世界的な人の動きがあったことが容易に理解できます。また、その時の交易の言語は何だったのかなどを調べてみれば、英語だけが世界の共通語だという発想がいかに偏ったものであるかがわかるでしょう。
英語を学ぶことは大切ですが、英語さえ知っていれば世界で通用するという考え方は危険です。世界には何千もの言語が存在し、それぞれかけがえのないものであるということを意識して学んでださい。英語を入口にさらに踏み込んで、世界の言語を一つでも多く学ぼうとしてみてください。完璧に使いこなせなくてもかまいません。お互いが、相手のことばと文化を尊重しあう態度こそが重要なのです。
本学には11学部、14研究科(大学院)があります。多くの学部で英語のほか、第2外国語も学ぶことができます。私は商学部に所属していますが、私が担当するスペイン語は、商学部でも学ぶことができますし、ほかの多くの学部でもスペイン語を学ぶことができます。
また、商学部では、教養演習や教養基礎という授業で私の研究テーマに関連した内容の勉強もできます。
大学院言語コミュニケーション文化研究科では私の研究テーマやその周辺領域について専門的な研究も可能です。他大学で学んでから進学してくる方もいますので、将来、この分野に興味を持った際は思い出してください。
興味がわいたら~先生おすすめ本
今そこにある多言語なニッポン
柿原武史、上村圭介、長谷川由起子:編
最近、大都市だけでなく、どこに行っても外国人の姿を目にするようになった。観光地を訪れると、世界各地からの観光客であふれかえっている。また、近くのコンビニや飲食店の店員さんが外国出身の方だと思われることも多くなったのではないだろうか。そんな「出会い」はあっても、そうした人たちと話したり、一緒に行動したりする機会は案外少ない。この本は、様々な言語の教育に携わる大学教員が、それぞれの視点から、身近に存在する「多言語な」現場を報告している。具体的な現場を垣間見ることで、いかに日本が多言語な空間であるのかを実感できるだろう。 (くろしお出版)
ことばと国家
田中克彦
日本にいると日本語を話せて、学校教育を日本語で受けられるのが当然と考えがちだが、そのような社会は非常にまれだ。多数の言語を併用する国は多く、国家によって、それらの言語の扱い方は様々である。また、どんなに話者数が少なくても、言語そのものは国家の公用語や英語のような大言語と比べて劣っているわけではない。それぞれの言語はそれぞれの社会を反映して、豊かな語彙や表現を持っている。そうした言語的な豊かさを守りつつ、すべての人が平等に社会に参加できる方法を考えるのがこの分野の目的の一つである。言語学を学び始める時の必読書。国家とことばがどのように関わっているのかを知るための様々なヒントを与えてくれる。 (岩波新書)