スイスは九州ほどの面積しかない小さな国ですが、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語という4つの公用語を持っているユニークな国です。いわゆる「国語」として言語をひとつに統一しないで多言語多文化の国であることを選択しているのは、1291年の建国以来の伝統ですが、その意味では、スイスは「多様性の中の統一」をモットーとするEUを先取りしているとみなすこともできます。一方、ひとつの国としてのまとまりを保持するために、スイスは特殊なナショナル・アイデンティティーを必要としています。
多言語多文化の国スイスの文学から見えてくる異文化共存の難しさ
私はドイツ語圏スイスの現代文学を研究しています。ここ数年取り組んでいるのは、スイスのナショナル・アイデンティティーをめぐる政治的言説と文学との関連を探ることです。多言語多文化の国スイスの文学からは、言語的な豊かさ、ひとつの言語だけでは理解できない世界の複雑さ、ネーションや国民文学といった概念ではこぼれ落ちてしまうものの多さ、そして異文化が共存することの難しさが見えてきます。
グローバル化が進む中で、言語や文化をひとつにまとめようとすることの何が問題なのか、EUの難民問題によって露呈した多文化主義・異文化共存の困難はどのようにすれば克服できるのか、そういった現代的な課題を解決するためのヒントがスイス文学の中に潜んでいます。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→公務員、教育・学習支援業、製造業
- ●主な職種は→地方公務員、教員、事務系
- ●業務の特徴は→このところの安定志向で公務員になる卒業生が多いです。公務員で多いのは県庁・市役所の職員。教員の場合は中学か高校の英語または国語の教員で、塾講師になる場合もあります。海外で日本語を教える仕事に興味を持つ学生も増えてきました。一般企業の場合は事務系総合職が多いです。
分野はどう活かされる?
文学を学んできた学生たちですから、本を読んだり文章を書いたりするのが得意です。そのような能力は事務系の仕事で大いに活かされていると思います。また、留学経験を持つ学生が多いので、それぞれの職場で外国語力や国際感覚が活かせるような仕事を任されているようです。外国語力を直接活かす仕事としては、航空会社のキャビンアテンダント、旅行代理店でのヨーロッパ旅行企画担当、外資系企業の総合職などがあります。
ドイツ文学はドイツという国の文学ではなく、ドイツ語で書かれた文学のことです。ドイツ語で書く作家たちの出身地はドイツ、オーストリア、スイス、チェコ、トルコ、ロシア等、実に様々です。ドイツ語圏の国々はヨーロッパのちょうど真ん中に位置し、歴史的にも文化的にも他のヨーロッパ諸国と緊密な関係を持っています。ドイツ文学を通じてドイツ語圏の文化や社会、歴史を知ることは、ヨーロッパを理解する鍵です。ドイツのみならず広くヨーロッパに興味のあるみなさん、ドイツ文学を学んでみませんか。
神戸大学文学部では、ヨーロッパ文学としてはドイツ文学とフランス文学が学べます。ドイツ語やフランス語を4年間かけてしっかり学習しながら、文学史や特殊講義といった授業を通して専門的な知識を身につけ、演習でレポートや論文の書き方を学んでいきます。卒業論文を仕上げることが最終目標ですが、それが無理なく完成できるような仕組みになっています。
ドイツやオーストリア、フランスに協定校がいくつもあり、短期の語学研修や長期の交換留学が可能です。ドイツ文学専修もフランス文学専修も徹底した少人数教育を行っているため、教員の指導が行き届き、学生同士も親しい人間関係を築きやすくなっています。
興味がわいたら~先生おすすめ本
失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選
フリードリヒ・デュレンマット
デュレンマットは、戦後のドイツ語圏スイス文学を代表する作家。彼は50年代半ばに、現代人を脅かしているのは「もはや神でも正義でも運命でもなく、交通事故や設計ミスによるダムの決壊、注意散漫な実験助手が引き起こした原爆工場の爆発、調整を誤った人工孵化器」のような「故障」だと述べた。それから60年以上経った今、現代の世界が「故障の世界」であることを誰よりも痛感しているのは福島原発事故以後を生きる私たち日本人ではないだろうか。デュレンマットの作品で扱われるテーマには常に普遍性があり、時を越えて現実的な問題に立ち向かう際の一種の思考モデルとして機能している。本書は日本ではあまり知られていないスイス文学の入門書としてもうってつけ。 (増本浩子:訳/光文社古典新訳文庫)