文化財科学・博物館学

遺跡から出土した骨の年代を正確に求める~放射性炭素年代測定技術の開発


南雅代 先生

名古屋大学 宇宙地球環境研究所/環境学研究科 地球環境科学専攻

どんなことを研究していますか?

平安後期から鎌倉時代を生きた高僧に、貞慶という僧侶がいます。浄土宗の開祖、法然の念仏を厳しく批判したことで有名です。貞慶は死後火葬されました。火葬された骨の場合、有機成分が損失してしまっており、従来の手法による放射性炭素年代決定はできません。ところが、火葬されても骨の中に残っているある無機成分中の炭素から、年代測定が可能であることが最近の研究からわかってきました。実際に、この手法を用いて貞慶の火葬骨を測定した結果、予想通りの年代が得られました。

この例のように、新たな技術を開発し、これまでは測定できなかった考古遺物の年代測定を可能にしています。得られた正確な年代に基づき、さらに遺物中の化学元素や同位体の特徴を調べることにより、昔の文化や環境を復元しています。

文化財科学は、理系と文系の研究者が協力しあう学問

文化財科学は、考古遺跡から出土した遺物を自然科学的・考古学的に探る学問分野です。私は、これまで遺跡から出土した骨の年代を正確に求める研究を行ってきました。年代のほか、骨の形態分析から体格・病歴など、化学分析から食性、移住の有無などの知見を得ることも可能です。これらの自然科学的情報を、遺跡の考古学的知見と兼ね合わせ、当時の文化や環境を復元することを目的としています。文化財科学は、理系と文系の研究者が協力しあう文理融合の学問分野と言えます。

文化財科学分野においては、文化財の保存・修復のための科学技術の開発も行われています。例えば、高松塚古墳の壁画の保存・修復には、生物化学を用いたカビの研究、美術的な立場から絵の具の研究、建築学からは保存場所の換気などの研究といった具合に、様々な素地を持つ文化財学者が協力しあっています。

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学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→公務、教育、技術専門職
  • ●主な職種は→公務員、教員、研究員
  • ●業務の特徴は→化学分析・環境分析など
分野はどう活かされる?

文化財の化学分析を通じて得た知識・技術を生かして、公務員として県や博物館の研究所、分析センターや、民間製造業に技術職で就職しています。高校の教員、大学で研究員をしている者もいます。

先生から、ひとこと

高校生の間は、理系・文系という枠にはまることなく、幅広い知識をたくさん得ることが重要です。視野を広げて、いろいろなことに興味を持ってください。近年、理系・文系にとどまらない境界領域の研究が注目されています。文化財科学は、まさにこの境界領域の研究分野であり、今後の発展が期待されます。

先生の学部・学科はどんなとこ

名古屋大学は、加速器質量分析装置による放射性炭素年代測定を日本で初めて行い、これまでに数多くの文化財資料に年代を付与してきました。文化財資料の年代測定を行うにあたっては、まず資料の吟味、そして資料を適切に化学処理して汚染を取り除くことが必要です。我々は、これらに対して、十分なノウハウを有しており、最先端の分析が可能です。所属する学生たちは、これらの最先端のノウハウを直に学ぶことができるだけではなく、文化財関係の機関とのつながりも強いため、真の意味での文理融合の研究を推進することができます。歴史にも科学にも興味のある学生にとっては、まさに一挙両得の研究を行うことができるのではないかと思います。

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遺跡での試料の採取

先生の研究に挑戦しよう

例えば、考古博物館に出向き、遺跡から出土する植物遺体の種類、植物の利用の仕方を年代ごと、地域ごとにまとめると面白いと思います。植物は暖かいところで育つもの、寒いところでも育つものなど様々ですので、植物遺体の種類から、その地域の当時の気候が推定できます。また、植物遺体の利用体系を調べることにより、地域間のかかわりについて考察できます。

興味がわいたら~先生おすすめ本

チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る

大河内直彦

地球の気候変動の謎に迫った本です。室町時代後半から戦国時代にかけての戦乱は西暦1680年頃をピークとする長い寒冷期によるもの、江戸時代の天明の大飢饉も寒冷化によるものと言われています。この本は、科学データを提示しながら、人類の歴史と気候変動は密接に関係していることを解説しています。内容は大学レベルですが、高校生にも十分興味を持ってもらえる内容です。本書の地球化学の内容は、人類の歴史的な文化財を扱う「文化財科学・博物館学」と大いに関係しており、その点でも興味深いと思います。 (岩波現代文庫)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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