考古学ファンなら見逃せない話題に、古代青銅鏡の三角縁神獣鏡があります。それは奈良市にある黒塚古墳から出土し、「卑弥呼の鏡でないか」と注目されるようになりました。古代青銅鏡がどのように作られたのかを知るためには、主要構成元素の銅、スズ、鉛の比率を正確に知ることが重要です。
私たちは、マイクロスコープを用いた出土青銅鏡の表面観察をする過程で、金属組織が観察されることを偶然見出しました。この金属組織画像を解析することで、青銅の成分を知ることが可能です。この成分を詳細に調査すれば、それが中国で作られたのか、日本で作られたのかを判別するための一つのカギとなることが期待されています。
私の専門は金属考古学という学問です。金属の鋳造、鍛造や接合技術を中心とした金属加工に関する研究をしています。そのため、インダス文明における青銅器の発生と東西伝播の研究や、三角縁神獣鏡のような古代青銅鏡の成分分析に取り組んできました。
忘れ去られた古代の人びとの技術を、現代によみがえらせる
現在は、古代の鋳物の製作技法の調査を行っています。特に、殷周青銅器と呼ばれる古代中国の鋳物は、複雑な形状と精緻な文様が特徴で、極めて高い鋳造技術によってつくられたと考えられています。殷の古代遺跡から、多くの鋳型の破片が出土していますが、完全なものはほとんどなく、当時の鋳造方法はいまだに明らかにされていません。そのため、鋳物の成分を非破壊で分析し、そのデータをもとに、コンピュータシミュレーションによる鋳造技法の解明に取り組んでいるところです。
また、これまで、インド、中国、韓国および日本の、高スズ青銅の鋳造、鍛造、熱処理技術に関する調査、研究を行ってきました。古代から現代までの鉄鋼や銅合金の熱処理の歴史を明らかにすることが目的です。現代においては忘れ去られてしまった古代の人びとの技術を明らかにし、これを現代によみがえらせることで、地域の新しい製品開発へのヒントにもなることを期待しています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→建築、機械製造業、公務員など様々な分野で活躍しています。
分野はどう活かされる?
ある卒業生は、大手の重工業メーカにおいて、レーザ加工装置を工場のラインに組み込むための設計や模型作りをしています。工学系の出身ではないにもかかわらず、芸術文化学部で培ったモノづくりのスキルを活かし、活躍しているとのことです。
古代の技術には、現代においても再現の難しい高度な技術があります。センサや便利な機械がなかった時代に、人々がどのようにものづくりをしたのか、これを明らかにするのが文化財科学の面白いところです。文系、理系それぞれの知識が必要な領域ですから、好奇心が旺盛な方には、ぜひ挑戦してもらいたいと思います。
興味がわいたら~先生おすすめ本
理系の視点からみた「考古学」の論争点
新井宏
この本は古代を探究する考古学について、考古学者が長年論争してきた謎を理系科学者の視点から考察している。著者は、もと鉄鋼会社の金属エンジニア。たいへん興味深い1つに、従来の炭素14年代年代測定法に対する疑問の提出がある。弥生時代はどこまで年代を遡れるかという謎に対し、国立歴史民俗博物館グループの主張する「弥生時代中期のはじまりは紀元前370年頃」という説はまったく合わないと述べ、鉛の同位体の比率に基づく分析法を駆使、著者は紀元前250年頃と結論する。卑弥呼の鏡と言われる三角縁神獣鏡についても、主観的な思考を排し、基礎的な数値データに基づき興味深い仮説を展開する。文化財科学の入門書としても面白く読める。 (大和書房)