日本文学

地域の歴史資料を地域の人と守る防災ネットワークを広める


丹羽謙治 先生

鹿児島大学 法文学部 人文学科 多元地域文化コース/人文社会科学研究科 国際総合文化論専攻

どんなことを研究していますか?

災害の多い日本で地域の歴史を物語る資料をどう守るかは喫緊の課題です。対象は古文書・和本・掛軸・諸道具など内容・かたちは様々です。不幸にも地震や豪雨の被害を受け、捨てられていった地域の資料もたくさんあります。鹿児島県下でも火山噴火や台風などの被害を受け続けています。

私は、地域で育まれてきた資料がその地域で大切にされ伝えられていくために、資料のありかを確認し、デジタルカメラで撮影しデータ化する一方、地域の方々と協力してこれらを守る、そして万一の際には駆けつけて資料を救出するという、史料の防災ネットワークの活動を広めています。

その一方で、図書館などで所蔵されている資料の読み直しも行っており、島津家の蔵書「玉里文庫」がどのようにできていったのかを考えています。また、若い人たちに資料を読む能力を植え付けることにも取り組んでいます。資料を守ることは、その地域の文化を守り、考えることにつながっています。

悪いイメージの人物も本当は重要人物!?歴史資料から新たな歴史像を掘り起こす

地域の歴史資料には、これまで正しい評価をされずに悪いイメージを持たれてきた重要人物や、世にあまり知られていない地域のリーダーに関する記述がたくさんあります。地域の歴史資料は、イメージに流されることなく、実態により近づくための情報の宝庫です。それは百年後、二百年後の人々がまた新しい歴史像を作っていくための基礎となるのです。

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『琉球人行粧之図』『琉球人往来筋賑之図』(いずれも鹿児島大学附属図書館 玉里文庫)の今まで不明だった伝来について、宇和島藩士が故郷の子どもたちに見せるために江戸の琉球人の行列を描いたものであることを明らかにしました。その絵巻とともに写っています。

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→公務員、教員、金融、小売
  • ●主な職種は→一般事務、営業
  • ●業務の特徴は→事務系が多いようです
分野はどう活かされる?

文学系の学生なので、当該分野での調査能力、論理展開力を仕事の中で活かしていると思われます。

先生から、ひとこと

かつて鹿児島は歴史資料不毛の地とよばれていた時代もありましたが、資料は膨大な数が残されていますし、まだまだ知られていないものも多数あります。記録は過去の歴史に通じる「鍵」です。それを読み解き、歴史像を変えていく、地味ですが重要な役割を多くの人々に担ってほしいと願っています。

先生の学部・学科はどんなとこ

鹿児島大学では、地域の資料を守るために、その前提として地域を知る授業を行っています。地域の文化や歴史に特化した授業(共通教育)も多数用意されており、専門科目では古文書や和本といった地域の資料を調査するための授業が開設されています。

また、デスクワークだけでなく定期的に各地の博物館や史跡を巡見して歴史を体感してもらう企画を実施しています。そのほか、古文書を解読する訓練も合わせて行っています。

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鹿児島県霧島市で行った、災害を想定して資料をどのように救出するかイメージトレーニングをするワークショップにて。

先生の研究に挑戦しよう

地域に残っている古文書類を探してみる、地域の中にある石碑や墓誌などを探してみるといった、足元の文化財を探してみることをお勧めします。

興味がわいたら~先生おすすめ本

天災から日本史を読みなおす

磯田道史

昔の人たちが地震や津波など激甚災害にいかに対応してきたのか、古文書の中の災害記録を通して、つぶさに学ぶことができる。古人の智恵が詰まっているのが、古文書などの膨大な数の記録だ。資料がなければ、研究者はものが言えない。著者は、テレビでの歴史解説もわかりやすい磯田道史先生。膨大な資料群の中から災害情報を抽出し、それをわかりやすく人々に投げかけてくれている。記録を読むことの素晴らしさも実感できる。著者の熱い思いも本書を一気に読み進めさせてくれる。 (中公新書)


街道をゆく

司馬遼太郎

司馬遼太郎による日本各地、オランダやモンゴルなどを旅した紀行をまとめた全43巻。日本民族と日本文化の源流を探る旅。江戸時代を中心に、地方には様々に個性的な人物が輩出したこと、個性的な文化が存在したことを発見できる。 (朝日新聞出版)


忘れられた日本人

宮本常一

著者は、昭和14年から日本各地を歩き回り、各地の民間伝承を調査してきた。本書は、地方の老人たちから聞きとった、地方に生きる人々を鮮やかに描く。近代以前の日本人のスケールの大きな生きざまが、生き生きと伝わってくる。 (岩波文庫)


学校では習わない江戸時代

山本博文

江戸時代がよくわかる一冊。参勤交代はトラブル続き、地方自治のルーツは一揆にあり。史実の背景や、イメージとは反する江戸の歴史を見せてくれる。固定観念にとらわれずに歴史を見ていくことの大切さを教えられる。 (新潮文庫)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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