中国文学

詩人たちの様々な言語実験を明らかにする~中国古典詩の研究


小川恒男 先生

広島大学 文学部 人文学科 日本・中国文学語学コース/人間社会科学研究科 人文社会科学専攻 人文学プログラム

どんなことを研究していますか?

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研究室にて、杜甫の詩を読む

中国の三国時代の呉、東晋、南朝の宋・斉・梁・陳を「六朝」と呼びますが、この時代に生み出された中国の古典詩を研究しています。中国には昔、歌謡の楽曲や歌詞を集めて記録する「楽府」と呼ばれる役所がありました。「楽府」で採録、整理された歌詞や後の時代の模倣作など韻文のジャンルを、現在では「楽府」と総称しています。私は六朝で生み出された「六朝楽府」を専門的に研究しています。

詩人はどのように語を選んだり、生み出したりするのか

「六朝楽府」は、中国古典詩の歴史の中でも、詩人が様々な言語実験をしており、その後の新しい詩的言語を決定づける極めて重要な役割を果たしました。詩人は詩を作るとき、自分の表現したい内容に従って新しい語を創造したり、以前から存在する語の中から最も適切だと思われるものを選択したりします。私はその創造や選択のメカニズムについて少しでも明らかにできればと考えて研究を進めています。

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→教育・学習支援業
  • ●主な職種は→高校教員
  • ●業務の特徴は→大学で得た高度な専門知識を活用できる
分野はどう活かされる?

言葉を大切にしつつ、一つの作品には様々な解釈があり得るということを生徒に伝えられている教員となっていると思います。

先生から、ひとこと

「文学」は、社会に変化をもたらすものではなく、社会の在り方を映し出す鏡のようなものだと思っています。言葉を大切にする社会なのかどうか、多様な価値観の存在を認める社会なのかどうか、教養を重んじる社会なのかどうか、世界の様々な国、地域、民族それぞれの文化や伝統を尊重する社会なのかどうかなどが、反映される鏡だと考えています。

先生の学部・学科はどんなとこ

文学研究の伝統があります。伝統があるので、多くの様々な文献資料・史料が蓄積されています。古い文献資料・史料の中には今となってはいくらお金を積んでもなかなか入手できないものもあります。ここで学ぶ人たちはみなホンモノの資料や史料を実際に手に取ってみることができます。ホンモノに触れることは大切です。中央図書館の地下にある書庫は心地よく秘密めいて、至福の時間を過ごすことができます。

先生の研究に挑戦しよう

図書館に行って、例えば杜甫の「人と文学」について調べてみることも、当然のことながらできますし、『三国演義』『紅楼夢』など中国の小説を日本語訳で読んでみることもできます。

けれども、「熱中症」の「中」と「中毒」の「中」はどこがどう違っているのだろうか。「立夏」と「夏至」とでは「夏」の位置が違っているのはなぜで、一方は「か」と読み一方は「げ」と読むのはなぜなのだろうか。このような日常の言語生活の中から疑問点を発見することの方が大切だと思います。もしかすると解答を得られないかもしれませんが、そのこと自体は問題ではありません。疑問点を発見しようとする姿勢こそが貴重なのです。

興味がわいたら~先生おすすめ本

漢詩のレッスン

川合康三

試験に合格した喜び、恋人との別れ、はるかな故郷への思いなどを詠んだ、唐代の絶句15首がわかりやすく解説。現代に生きる我々にも共有できる様々な思いに共感を抱くことも、詩を読む楽しみのひとつだが、その思いがどのような言葉で表現されているかを味わうことにこそ詩を読む面白さがある。詩人というのは、どんなに深刻な思いを描く場合でもそれをどのような言葉で表現するかを思い悩み、その活動を楽しんでいるふしがある。中国文学研究の面白さのひとつは、詩人が心の奥深いところで楽しんでいる活動を追体験することだと言えるだろう。 (岩波ジュニア新書)


文字禍

中島敦

国語の教科書にも掲載される中島敦の小説「山月記」。1942年、「山月記」とともに『文學界』に掲載されたのが、「文字禍」。文字の霊が人間に及ぼす災いを題材とする。小説の舞台は「アッシリヤ」だが、描かれている「文字禍」の文字はまさしく漢字そのもの。文字が持つ不可思議さや恐ろしさに迫る作品。多数の中島敦全集などに収録されている。『山月記・李陵 他九篇』 (岩波文庫)でも読むことができる。 (岩波文庫)


風雲児たち

みなもと太郎

徳川幕府成立から幕末までの江戸時代史のマンガ。ギャグも多い。医学のため未知の言葉(オランダ語)に挑戦して苦闘する前野良沢、杉田玄白たちを描いた巻は特にお薦めで、脚本・三谷幸喜でテレビドラマ化もされた。2018年現在全30巻。 (リイド社)


孔子暗黒伝

諸星大二郎

SFや、伝奇的作品を得意とする諸星大二郎氏による日本SF漫画の金字塔。『論語』に白川静に仏教に民俗学、どれほどの参考文献が必要になるのか分からないほど。集英社の『週刊少年ジャンプ』に1977年から1978年にかけて連載された。 (集英社)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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