設計工学・機械機能要素・トライボロジー

ミクロなものでも摩擦を減らせば効率アップ~マイクロトライボロジーの世界


安藤泰久 先生

東京農工大学 工学部 機械システム工学科/工学府 機械システム工学専攻

どんなことを研究していますか?

「トライボロジー」とは全く耳慣れない言葉ですが、物と物が擦れ合うときに作用する摩擦に関する学問分野です。自転車の車軸、自動車のエンジンなど、機械の中で滑り合う部品の摩擦を下げるため潤滑油が使われます。このとき、滑り合う面に肉眼では見えない程の小さな凸凹や溝をつけると、潤滑油の効果が高まり摩擦を低くすることができます。こうして摩擦を低くすることは、機械の効率を上げ、省エネルギーにもつながります。

表面の構造や形状をコントロールする

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しかし、摩擦力を狙った通りに制御することは、実は非常に難しいものです。私は、非常にミクロなスケールで、表面の構造や形状をコントロールする摩擦を研究対象としています。これをマイクロトライボロジーといいます。

扱っている対象はとても小さいですが、製品の性能に影響を与えます。小さな電子デバイスの摩擦力を制御することで、冷蔵庫やエアコンなどの家電製品の効率が上がり、電気代が安くなったり、故障しにくくなったりします。自動車のエンジンの内部にも摩擦を生じる部品がたくさんあります。その摩擦を低下させることができれば、自動車の燃費が向上し、日本の全ての自動車に適応されれば、大幅なCO2排出削減にもつながるのです。

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学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→製造業
  • ●主な職種は→設計・開発、生産技術、プラントエンジニア
  • ●業務の特徴は→自動車、自動車部品製造の割合が多い
分野はどう活かされる?

トライボロジーを大学時代に専門的に勉強している学生は少ないのに対して、メーカーの中では設計や開発においてトライボロジーに関する知識が求められることがあります。またMEMS(微小電気機械システム)に関する研究も同様で、専門的な知識が必要とされますが、大学で学んでいる学生が少ないため、専門性を活かせるチャンスが多いようです。

先生から、ひとこと

設計工学・機械機能要素・トライボロジーの分野は、機械の中で目立たない部品を扱うことが多いですが、機械の全体の性能や安全性に影響を与えます。その中でもトライボロジーは、生活の中でいろいろな所に関係しています。ところが、なぜ摩擦が働くかということもよくわかっていません。身の周りの摩擦を観察しながら、摩擦の謎に挑戦してみてください。

先生の学部・学科はどんなとこ

機械システム工学科には現在30以上の研究室があり、機械システム工学のほぼ全領域をカバーしています。徹底した少人数教育、充実したものづくり教育、最先端の研究機関との緊密な研究連携などにより、ものづくりの本質を理解し精通したエンジニアの養成を目指しています。その中で、設計工学・機械機能要素・トライボロジーに関連する研究としては、球面モータ、MEMSステージなどのアクチュエータの開発、トライボロジーや表面現象も考慮した医療用デバイスの開発、摩擦現象の解明と産業への応用を目指したマイクロトライボロジーの研究などが行われています。学生は自分の興味に応じて研究室を選択することが可能です。1研究室当たりの卒論学生数は4〜5名であり、指導教員によるマンツーマンの研究指導が受けられます。

先生の研究に挑戦しよう

(1)アイロンを使わずに布のシワを取る
1辺が10〜20cm程度の木綿の布を洗濯して、しわくちゃのまま乾かします。その後、布からシワを取る方法を考えてみます。シワシワの原因の一つは繊維同士の摩擦です。条件は、「40℃以上の高温にはしない」。濡らしてもよいですが、乾いたときにシワが取れているようにします。家にある液体を使ってもOKです。

(2)柔軟剤による綿の繊維の滑りやすさの比較
細く割いた綿に柔軟剤を含ませ乾燥させた後に、綿をねじって引っ張ったときのちぎれやすさを比較する。繊維が切れるように感じるかも知れませんが、実際には1本1本の繊維が抜けることでちぎれます。その抜けやすさ=滑りやすさということで、摩擦が関係しています。綿の太さを同じにして、ねじる回数、柔軟剤の種類、柔軟剤を水に溶かしたときの濃度を変えてみましょう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

摩擦の話

曾田範宗

ダビンチなどの歴史的な研究から始まり、身近な摩擦に関する現象を取り上げ、力学的な視点も含めてわかりやすく解説しています。前半は、繊維やオモチャ、スポーツなどと摩擦の関わりを紹介。後半は、機械の設計や機械で使われている部品と摩擦の関わりについての解説です。古い本ではありますが、摩擦を理解するためには、物理、化学、数学、あるいは生物など、いろいろな教科の勉強が必要になることがわかると思います。 (岩波新書)


サイエンス・アドベンチャー

カール・セーガン

天文学者であり、NASAの惑星探査にも尽力したカール・セーガンは、『コスモス』『コンタクト』など科学啓蒙書やSF小説の執筆でも知られています。本書では、まやかしの科学、証明されていない仮説に対してどのような態度を取るべきか、科学に向かう姿勢を考えるきっかけを与えてくれます。 (中村保男:訳/新潮選書)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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