1992年、分子生物学で大発見がありました。生物の細胞膜に水分子を選択的に通過させる、膜タンパク質の水チャンネルが発見されたのです。これをアクアポリンといいます。この業績で2003年、アメリカ人研究者ピーターアグリ教授はノーベル化学賞を受賞しました。ヒトの体で肌の潤いが保たれているのも、皮膚の細胞膜に大量の水輸送のタンパク質、アクアポリンがあるからと考えられます。私は植物のアクアポリンの研究に取り組んでいます。
植物アクアポリン研究が、乾燥や塩害に耐える作物開発の基盤に!
植物は根から吸い上げた水を、茎の中を縦に貫く維管束を通して全体に運びます。これを分子レベルで細かく見ると、植物の細胞内外で水分子が移動する場合に、アクアポリンが働きます。私たちは、アクアポリンは水だけでなく、さらに二酸化炭素やナトリウムイオンを輸送していることを明らかにしました。
植物の光合成は水と二酸化炭素を吸収し、有機物と酸素に変える重要な働きをします。二酸化炭素の輸送を人為的に制御すれば、光合成を活性化させることが可能になると期待されます。またアクアポリン研究によって、植物が水とイオンを吸収する機構を明らかにすることは、世界的な農業用水不足や地下水の枯渇に対して乾燥に耐えうる作物や塩害に強い作物を開発していくための基盤となります。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→食品、製紙、製薬、地方自治体、農協
- ●主な職種は→研究開発、指導員
- ●業務の特徴は→製品の開発や技術指導に専門知識を生かしている
分野はどう活かされる?
製紙やコーヒー産業、製薬において、植物科学の知識を応用して製品開発に関与しています。また地方の農業指導員として活躍しています。
植物科学は、生命科学の中では、ヒトを含む動物科学や微生物科学に比べて地味かもしれません。でも人類の生存を土台でさせているのは食糧生産であり、その食糧の大部分は植物によって生産されています。食糧が充分あって、はじめて医学もエレクトロニクスも価値を発揮できるのです。ぜひ、一人でも多くの方々に現代の植物科学が解き明かす植物の生き方、そして植物の生産物を使わせてもらって私たちは生かされているということを、知ってもらいたいです。植物科学研究に参加してくれる多くの新しい力を待っています。
私の所属する岡山大学資源植物科学研究所は、大学付属の研究所で、大学院生から受け入れています。研究を志すみなさんには、ぜひ大学院で岡山大学大学院環境生命科学科に進学していただき、資源植物科学研究所でストレス環境に応答する植物の分子メカニズムを研究してもらいたいと思います。
当研究所は一般の大学研究室より、学生数が少ない分、教員の指導も目が行き届き、学生一人当たりの研究スペースや予算も潤沢です。研究機器も最先端のものが多くそろっています。特に水やミネラルイオン(植物栄養)の輸送機能についての研究が盛んで、その分野の研究者、研究成果とも日本はもちろん世界においてトップレベルです。
興味がわいたら~先生おすすめ本
植物は感じて生きている
滝澤美奈子
水やミネラルなどの植物栄養も含めて、様々な環境要因に植物がどのように応答しているか、科学ジャーナリストの手でわかりやすく書かれています。植物は食糧と資材の生産を通じて人類の生活に大きな恵みを与えてくれています。また地球環境においても植物はなくてなりません。しかしその割に私たちは、植物が生きるしくみ、特に様々な環境変化にダイナミックに応答しているメカニズムをあまり理解していません。この本は植物の巧妙な環境適応機構について、それを研究者はどのように研究しているか、実際の研究現場でのインタビューを通じてわかりやすく教えてくれます。 (日本植物生理学会:編/化学同人)
みずものがたり 水をめぐる7の話
山本良一
著者は環境問題が専門の工学者、編者のThink the Earthは「エコロジーとエコノミーの共存」をテーマとするNPOです。この本は両者が共同で、環境問題にあまり関心を持たない多くの人にメッセージを届けたいという思いで作られました。「水はたくさんの条件が奇跡的に整って、0度から100度のあいだ、つまり水が液体として存在できる温度を長い時間保ってきた」、「体の70%が水でできている」と編者は述べます。そしてその水を「人間は大切にしているだろうか」と問いかけます。見過ごされがちな水の重要性、人間や生物と水の関係、世界の水事情について豊富なイラストを交えてわかりやすく解説しています。 (Think the Earthプロジェクト:編/ダイヤモンド社)