材料の研究分野で注目を集めているものの一つが、「バイオミメティック(生体模倣)」材料の開発です。例えば、人が骨折しても自然治癒するように、材料に傷が生じても自然に直っていったら、どんなに便利で有用なことでしょう。
私が追及している研究テーマは、生き物が当たり前に備えている動的機能を持った新素材の開発です。生体の動的機能とは、体温を一定に保ったり、成長したり、動いたりするような機能のことで、その機能のほとんどは化学反応によりなされています。今までも、動的機能を有する材料は開発されていますが、その多くは、電気や磁気を加えることで応答する物理現象が用いられており、生体の動的機能を原理の面から模倣しているとは言えません。私は、化学反応による生体の動的機能を模倣した材料を提案し、異種な物質を組み合わせて、適切な化学反応により自己治癒性を備え持つ新素材(もしくは複合材料)の開発を行っています。
自己治癒セラミックスは様々な高温機器に使える
私の研究の中でも最も注目を集めている研究は、自己治癒性を有したセラミックスの開発です。この材料は、高温(1000℃前後)で損傷を受けると、クラックが発生し、クラックの中に周辺環境から酸素が流入すると、材料中に予め複合していた炭化物等と接触することで化学反応を生じ、クラックを自発的に接合することができる材料です。このため、セラミックス特有の割れやすい性質を克服することができるので、ジェットエンジンや自動車エンジンなどの部材など様々な用途で利用されることが期待されています。
具体的な実験としては、新しい自己治癒機能を生み出す化学反応の探索、その化学反応を組み込んだ新素材の開発はもちろんとして、強度などの基本的な材料特性に自己治癒能力が及ぼす効果を測定する手法の開発を行っています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→重工業メーカー、自動車メーカー、素材メーカー
- ●主な職種は→設計
- ●業務の特徴は→新しい機械を設計する際の材料選定、実証をする業務。素材メーカーに就職する学生はユーザーの企業の技術者と協力して、新しい機械で要求される新素材の開発を行います。
分野はどう活かされる?
重工業メーカーに就職した学生の多くは、学生時代に培った材料の変形や破壊挙動の知見を活かして、火力発電機器のタービンなどの材料選定、部品の形状の設計などを行っている。
横浜国立大学には、国内にほとんどいない自己治癒材料研究者が数多く存在します。
興味がわいたら~先生おすすめ本
マグダラで眠れ
支倉凍砂
主人公は錬金術師のライトノベル。物語はファンタジーでも、話の核である錬金術には、ガラスの融点を鉛を加えて下げる、硝酸や塩酸を用いて水素を創るなど、実際の材料科学が活用されている。主人公たちは、発想の転換を得ることで、身の回りの物質を用いて錬金術の新しい知見にたどり着く。これは、「機械材料」分野でも重要なことで、機械生産のためには大量に使用できる材料であることが求められ、希少な元素を活用した物質や安定していな物質は用いることができない。このため、新発想により身の周りの物質を用いて新素材を生み出す必要がある。このラノベから材料や物質を生み出すドラマを楽しんでほしい。 (鍋島テツヒロ:イラスト/電撃文庫)