教育心理学

高齢者のエラー

なぜ高齢者のミスのほうが大事故につながるのか


土田宣明先生

立命館大学 総合心理学部 総合心理学科(人間科学研究科 人間科学専攻 心理学領域)

出会いの一冊

自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学

森口佑介(講談社現代新書)

心理学は、高校の教科に入っていないので、誤解の多い学問分野といえます。例えば、心理学といえば「心理テスト」や「性格検査」などがすぐ頭に浮かぶかもしれません。この本では、自分の行動をコントロールする「力」について解説しています。心理学ではこのような「力」を「実行機能」といいます。あまり聞きなれない用語かもしれませんが、この「実行機能」の意味を非常にわかりやすく解説してくれています。こんなことも心理学の対象になるのかということを、教えてくれると思います。

こんな研究で世界を変えよう!

なぜ高齢者のミスのほうが大事故につながるのか

同じミスでも若者と高齢者では意味が異なる

テレビを見ていると、高齢者がアクセルとブレーキを踏み間違えて、大事故になったというニュースをよく見ます。しかし、なぜ高齢者がアクセルとブレーキを踏み間違えると大事故になってしまうのでしょうか。

実は、皆さんのように若くて、免許を取り立ての人も、アクセルとブレーキを踏み間違えることが多いそうです。同じ「エラー」であっても、若い人と高齢者では、その意味が異なるようです。

エラー後の対応の遅れやエラーの連続が大事故に

私の研究では、このようなエラーの問題を「加齢」という観点から分析しています。とりわけ、エラーが起きた後の問題に注目しています。なぜかというと、高齢者では、アクセルとブレーキの踏み間違いのようなエラーが起きた後の対応が遅れたり、エラーを続けて起こしてしまうような例があるからです。

記憶に新しいところでは、2019年の、池袋の交通事故があります。この事故では大変悲惨な結果を生み出してしまったのですが、事故の詳細を見てみると、人を巻き込んだ大事故に至る前に、小さなエラーを起こし、エラーが連続する中で、最終的に大事故につながっている可能性があります。

このようなことから、操作上でエラーが起きるような状況を設定しておき、そのエラーを研究対象として、大学生のような若い人と、高齢者では、何がどのように異なるのかを、心理学の実験の中で分析しています。

高齢者の方を対象として、実験をしている風景です。場所は、大学内の実験室です。実験器具として、パソコンとスイッチ類、実験場面を記録するカメラを使用しています。
高齢者の方を対象として、実験をしている風景です。場所は、大学内の実験室です。実験器具として、パソコンとスイッチ類、実験場面を記録するカメラを使用しています。
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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高齢者の方々の、様々な行動特性を知ることで、より住みやすい環境を設定するための、基礎的な知見が得られるものと思います。例えば、高齢者のエラーの特徴を知ることで、大事故につながらない装置を工夫することができるかもしれません。そのことが、「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」ことにつながるように考えています。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「高齢者にみられる実行機能の特徴-エラー後の対応に注目して-」

詳しくはこちら

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先生の授業では
◆講義初回に話すこと

心理学は高校までの教科にないので、心理学という学問分野のポイントをまずつかんでほしいと考えています。そのために、自分の研究テーマである「エラー」の問題をどのように研究しているのかを例にしながら解説しています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
昨年(2019年)、ゼミ生との親睦を兼ねて、バーベキュー大会をしているとこころです。場所は、大阪市内のキャンプ場です。
昨年(2019年)、ゼミ生との親睦を兼ねて、バーベキュー大会をしているとこころです。場所は、大阪市内のキャンプ場です。
先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

(1)病院・医療

(2)金融・保険・証券・ファイナンシャル

(3)大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

◆主な職種

(1)医療系専門職(臨床検査技師・理学療法士等)

(2)一般・営業事務

(3)教育機関教員、インストラクター

◆学んだことはどう生きる?

学部段階では、心理学をベースにしつつ、その後、対人援助領域(例えば、看護学や言語障害学)に進み、その分野の研究者として活躍している卒業生がいます。心理学で、基本的な研究法や統計法など、科学的なスキルを身につけた上で、さらに興味のある分野に進むことができるのが特徴と言えます。また、企業の中で、商品開発を行っている卒業生もいます。同様に、科学的なスキルをマスターしたことで、選択肢が広がったものと思います。

先生の学部・学科は?

立命館大学の総合心理学部では、範囲の広い心理学のみならず、心理学の周辺領域まで含めて、人間科学分野を学修できるのが最大の特徴です。30〜40名程度のスタッフが、広い範囲をカバーしています。さらに、心理学の分野で、使える英語のマスターを目標に掲げています。「英語」を学ぶというよりも、「英語」で心理学を学び・発表するスキルの獲得を大事にしている点が本学の大きな特徴と言えます。

中高生におすすめ

サブリミナル・マインド 潜在的人間観のゆくえ

下條信輔(中公新書)

人の生活が、いかに日頃意識していないようなメカニズムによって支えられているかということを教えてくれます。


ヒトの心はどう進化したのか 狩猟採集生活が生んだもの

鈴木光太郎(ちくま新書)

ヒトの「心」が時間軸の中でいかに変化するか、それを分析することのおもしろさを教えてくれます。


先生に一問一答
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

カナダ。自然が豊かだから。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

グレン・グールド。特に、バッハの『ゴルトベルク変奏曲』。

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『ショーシャンクの空に』

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

 発達に問題を抱えたお子さんの家庭教師。

Q5.研究以外で楽しいことは?

時代小説を読んだり、地方の建物を探訪すること。


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