21世紀の夢の超微小材料として期待されるカーボンナノチューブは、1991年、飯島澄男博士という日本人が発見しました。当時、NEC基礎研究所にいた博士は、名古屋の名城大学に立ち寄った時、偶然見つけた炭素の実験装置にくっついていた煤(すす)をもらって調べ、世紀の大発見をしました。飯島博士は8年後、名城大学教授になりました。定年後はその栄誉を讃えられて終身教授となり、「名城大学はカーボンナノチューブ発祥の地」と言われています。
私は飯島教授の研究に協力者として関わり、その後もカーボンナノチューブの合成を中心に研究を行っています。カーボンナノチューブとは、「カーボン=炭素」、「ナノ=ナノメートル」、「チューブ=円筒」の3つの言葉を合わせたものです。炭素原子が六角形状に結合したものが、網目のように結びついて筒状に伸びた形をしています。しかし直径はとても細く、人の髪の毛の5万分の1の太さです。私はそれまでの製造法では600~700度の高温でしか作成できなかったナノチューブを、300度以下で作ることに成功しました。これは報告されている中では最も低い作製温度です。
古典力学では考えられない働きに注目
カーボンナノチューブのような微小サイズの物質は、量子力学的効果といって、エネルギーが連続した値でなく飛び飛びの値を持つといった、普通の古典力学では考えられない働きをします。現在、そこに興味を持って研究を進めています。結果が出た場合、現代社会を支える様々な半導体デバイスに取って代わるでしょう。例えば、現在主力のシリコン半導体に代わる高性能パソコンや高速のメモリ素子などが実現できるようになります。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→製造業(主に自動車・半導体関係)
- ●主な職種は→研究・開発、品質管理
- ●業務の特徴は→分析手法を駆使しながら、新材料の開発や改良を行うことが多いようです。
分野はどう活かされる?
自動車部品の材料開発、医療系部品の材料開発など
カーボンナノチューブに代表されるナノ材料の世界には、教科書には載っていない、未知の現象がたくさんあります。また、ナノ材料自体も次々と新しい材料が発見されており、現在最もホットな分野です。一緒に研究し、新たな発見をしましょう。
興味がわいたら~先生おすすめ本
ナノカーボンの科学
篠原久典
フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンなど、ノーベル賞受賞者を次々と出しているナノカーボン材料分野。この本では、特にフラーレンとカーボンナノチューブの発見時の様子が詳しく記されている。新しい、そして物性的に興味深い材料が発見された時に繰り広げられる「研究者の生態」が生々しく描かれ、研究者を目指していない人にとっても面白く感じられるだろう。21世紀はナノカーボン材料が様々な分野に使われるようになると予想されるが、その代表的な物質であるフラーレンとカーボンナノチューブの発見に、二人の日本人が関与していることを知ってもらうためにも、必読である。 (ブルーバックス)
大科学実験
小学生向けに作られた科学実験番組。取り上げるテーマは中高生の教科書に出てくる内容も多く含まれており、非常に興味深い。たった10分の大変短い番組だが、毎回毎回壮大なスケールで実験を行っており、大人でも充分に楽しく理解を深められる。
(NHK)