薄膜・表面界面物性

ナノ顕微技術

放射光に恋に落ち、二次元系物質を調べる装置を開発


永村直佳先生

国立研究開発法人 物質・材料研究機構、
東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科(先進工学研究科 マテリアル創成工学専攻)

先生のフィールドはこの本から

放射光が解き明かす驚異のナノ世界

日本放射光学会(編)(講談社ブルーバックス)

私が恋した眩い放射光がどのような研究に役立てられているのか、身近な例を交えてわかりやすくまとまっています。放射光自体は専用施設でしか作れないので、接する機会がないと思います。ぜひ本の中で新しい世界に触れてみてほしいです。

世界を変える研究はこれ!

放射光に恋に落ち、二次元系物質を調べる装置を開発

漫画よりさらに二次元、原子層物質

私の研究内容を一言で説明するならば、「大好きな二次元に光を当てて楽しんでいます」となるでしょうか。これは漫画やアニメの話ではありません。しかも漫画は紙の厚みが0.1mm、インクの厚みが1μmあり、実際は三次元の世界です。

世の中にはもっと薄い物質が存在します。例えば「グラフェン」。これは厚みが原子1個分しかない炭素原子のシートで、原子層物質と呼ばれます。

グラフェン以外にも、元素種の数だけ多彩な原子層物質を作ることが可能です。これらは同じ構成元素の三次元結晶と比較して全く異なる物性(電気伝導や触媒活性など)を示すことから、二次元系と解釈されます。

「地上の太陽」放射光で物性を分析

私はこの二次元系の物性をもっとよく知るための分析技術開発に取り組んでいます。大学院を卒業したての頃、「放射光」との衝撃的な出会いを果たしました。

放射光とは、光の速さ近くまで加速した電子に磁場をかけ、ローレンツ力で電子が曲がる際に放射される電磁波のことで、非常に明るく、地上の太陽といった趣です。眩い放射光への恋に落ちた私は、以来今まで放射光を使って実験しています。

電子の振る舞いを探るのにうってつけの装置

私が開発に携わった分析装置「走査型光電子顕微分光装置」は、放射光(特にX線)を虫眼鏡のような素子で集光し、二次元系物質に当てて、当たった部分から出てくる信号(光電効果により発生する光電子)を検出して局所的な物性を調べるものです。

試料を動かしながら測定することで、空間分解能100nmの画像データが得られます。二次元系物質のシートやそれを組み合わせた応用デバイスは非常に小さく、私たちの装置は二次元系における電子の振る舞いを探るのにうってつけなのです。

最近では、画像データを人工知能に認識させて、データ解析の超高速化や画像の高解像度化を進める研究にも取り組んでいます。

研究で世界をアップデート

「世界を変えよう」とテーマは壮大ですが、研究という営みは「どんな小さなことでも、世界で誰も知らなかったことを発見し、世界をアップデートする」ことです。

自分が作った分析装置で、まだ世界で誰も見たことがないものを初めて見るって、秘密の扉を開けるようでワクワクしませんか。そんなことを考えつつ私は今日も大好きな二次元に光を当てて楽しんでいます。

「走査型光電子顕微分光装置」の前にて

先生のフィールド[マテリアルズインフォ]ではこんな研究テーマも動いている!
きっかけ&学生時代

◆テーマとこう出会った

二次元系に興味を抱いたのは、大学時代に受けた物性物理学の授業がきっかけです。「物理学の体系は美しすぎて浮世離れしているな…」と思っていたところに、わずかな不純物が物性の鍵を握る物質表面(これも二次元系)のダーティーさ(!?)に惹かれ、大学院では表面物理学の研究室を選びました。

私は新しいもの好きで飽きっぽく、多趣味という、およそ研究者向きには見えない性分です。ただ、私はロールモデルという言葉が嫌いで、自分の専門の強みを活かしつつ新しい知見を積極的に取り入れ、共同研究の輪を拡げる、という自分なりの研究スタイルを確立しました。ちなみに今の研究テーマは、研究者仲間の飲み会で雑談している中で生まれたものです(笑)。

◆中高時代

再生医療に興味があって医学系研究者を志していたので、当時の自分からは想像もつかなかった未来を歩いています。正直言うと、医学部の大学入試に落ちて理工系に合格したから、という消極的な理由ですが…。

「物理学も面白いぞ」と目覚めたきっかけはあります。物理の先生に「摩擦力がどうしてあんなに簡単な式で書けるのか原理がわからない」と質問して、「経験則に依る所が大きくて未解明なので、今でも大学で研究されている」と教わった時です。こんな教科書の基礎的な内容でもまだわかっていないことがあるのかと、目から鱗が落ちました。

◆出身高校は?

桐蔭学園高校

東大4年生の時に初めて実験を行った装置。
超伝導マグネットが入って、磁場をかけながら物質表面の電気伝導度を測定する装置です
先生の分野を学ぶには
永村直佳先生 の研究・研究室を見てみよう

永村先生のページ(物質・材料研究機構)

小嗣研究室(永村先生所属)HP(東京理科大学)

Happy Go Lucky(永村先生HP)

◆Twitter: https://twitter.com/naganao

物質・材料研究機構(NIMS)の研究室にて。学生と一緒に真空成膜装置を組み立てています
先生の学部・学科で学ぼう

私の主所属は物質・材料研究機構(NIMS)という国立の研究所です(なので私はしがない公務員です)。現在東京理科大学の客員准教授も兼任していますが、他の大学からでも外研研修(学生が大学ではない外部の研究機関に出向して研究活動を行い、学位論文の指導を受けること)という制度を使ってNIMSで研究指導を受けることが可能です。

NIMSはその名前の通り、材料研究に特化した研究所で、新しい材料の創出や材料分析技術の開発を行っています。

中高生におススメ

相対性理論入門

内山龍雄(岩波新書)

中高生の時(当時は医者志望)に読んで、物理学も面白いなと思ったきっかけの一つになった本です。大学で相対性理論を学ぶ時はあんなに数式ばかりなのに、この本には数式が全く出てきません!


研究者としてうまくやっていくには 組織の力を研究に活かす

長谷川修司(講談社ブルーバックス)

院生時代の指導教官が執筆した本で、内容はタイトル通りです。よくある理想論や精神論ではなく、極めて実践的な内容が書かれているのが最大のおススメポイントです。


予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」(YouTube動画)

ヨビノリたくみ

無料で気軽に先取り学習ができる良質なコンテンツ。流し見しておくと、自分が現在勉強している内容が将来どう活きるのかがわかって、モチベーションが上がります。

[Webサイトへ]


ブラタモリ(テレビ番組)

NHK

個人的に好きなコンテンツです。身近な事象には必ず理由がある、ブラブラ歩いてよく観察するとその理由が見えてくる、というスタンスは、研究に通じるものがあると思います。中高生の頃見ていたら地球科学や地理学にも興味を持っていたかも…。

[番組サイトへ]


YouTube NIMSPRチャンネル「まてりある’s eye」(ウェブサイト)

nimspr

物質・材料研究機構(NIMS)の公式YouTubeチャンネルです。元NHKディレクターなど歴戦の猛者を擁するNIMSの広報部門が、材料研究の魅力を視覚的に伝えています。

[Webサイトへ]


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

やっぱり当時と同じように物理学を学ぶと思います。つぶしがきくからというと聞こえが悪いですが、物理学をしっかり体系的に学んでおくと、いろいろな分野の学問へ応用できます。私は物理学科を卒業した後、応用化学科でポスドク研究員、別の大学の化学・バイオ工学科で助教を勤め、今の物質・材料研究機構に至りました!

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

King Gnu、水樹奈々、aiko、スキマスイッチ、風味堂、etc.が好きですが(一組に絞るのは無理)、1曲選ぶなら、スキマスイッチの『全力少年』。大学院時代、実験やデータ解釈がうまくいかない時にこれを聴いて自分を奮い立たせていました…。セカイを開くのは僕だ!

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

火星でジャガイモを育てるところが見どころの映画、『オデッセイ』は好きです。『インターステラー』の世界観も好きです。『名探偵ピカチュウ』のしわピカチュウはたまりません。

Q4.熱中したゲームは?

実験測定の待ち時間(10分程度、この時間に別の作業を始めると実験の方を忘れてしまう)には手軽なスマホゲームが便利で、『Pokémon GO(ポケモンGO)』と『パズル&ドラゴンズ(パズドラ)』は未だにやっています。

Q5.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

浪人時代を過ごしていた予備校で個別指導コースの講師をしていたのですが、個性的な学生さんが多くて面白かったです。私は彼ら・彼女らから当時流行っていたアニメについての個別指導を受けました…。


ポスドク時代に自身が描いた、東大物性研究所の公式(?)ゆるキャラ「物性犬」と共に

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