量子ビーム科学

光ファイバー通信の弱点を克服するスイッチの開発


花泉修先生

群馬大学 理工学部 電子・機械類 電子情報通信プログラム(理工学府 理工学専攻)

どんなことを研究していますか?

光ファイバー通信は、インターネットなどの通信において高速、大容量送信を実現し、次第に普及してきました。しかし、光ファイバー通信の課題としては、信号が途中で弱くなってしまうことが挙げられます。現在の技術では、光信号をいったん電気信号に変換し、再び光信号に変換して使用しなければいけないからです。ここで信号が弱くなることで動作が遅くなり、より高速で大容量の情報伝送を困難にしています。

この光通信を改善する中核技術が、光スイッチ開発です。光信号を電気信号に変換することなく、光のままでON/OFFする光スイッチの開発が必要です。そこで光通信ネットワーク用デバイスとしてきわめて重要な、光スイッチの小型化・低消費電力化を狙った研究が進められています。

私はイオンビームを使った電気・光学デバイスの研究をしています。イオンビームとは、イオンを加速してビームを細く絞ったものです。イオンビームは、半導体材料などの表面の原子を弾き飛ばし、削り取ることで微細加工を可能にします。量子ビーム科学分野において私たち研究グループは、特にイオンビームを使った微細加工技術を使い、食品用ラップフィルムのようなきわめて薄い高分子の膜の中に、光の信号をやり取りする集積型素子や、光のままでON/OFFする光スイッチを作り出すことに成功しています。

身にまとえるフレキシブルな光通信回路

さらに、微細加工技術を用いて、生体親和性の高い高分子材料を薄膜化し、これに光の伝送路を埋め込むというやり方で、新たな光ファイバーを作りました。きわめて薄い高分子の膜の中で光の信号をやり取りすることができる、集積型素子です。このようなフレキシブルな光素子ができると、例えば折り曲げ可能な光通信デバイスが実現できます。

これが実現すると、将来のウェアラブルモバイルデバイスに必要となるフレキシブルな光通信回路の提供ができるようになり、人々の未来の潜在的なニーズに応える技術の基礎になると考えています。

桐生市内の河原でのレクリエーション(芋煮会)の風景。ナイジェリアとインドからの留学生(博士後期課程)と一緒です。関東地方では元々芋煮会の習慣はありませんが、私が東北地方の出身なので、私の研究室では毎年秋には芋煮会を開催しています。

この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な業種は→電気電子・光学分野の製造業・製品開発分野

●主な職種は→製造・技術開発系の技術者

●業務の特徴は→電気電子・光学関連の材料開発、製品開発や評価など

分野はどう活かされる?

基本的に量子ビーム科学分野を主な領域とする企業は多くないため、分野そのものの知識を活かす職種につく学生は多くありません。しかし、材料や素子開発などの研究活動において、電子顕微鏡やX線回折装置など、量子ビームを利用した材料分析や評価装置、レーザーを利用した光学機器を利用した経験などを生かし、電気電子分野での製造や評価、製品開発の現場で活躍する卒業生が多数います。

先生の学部・学科はどんなとこ

量子ビーム科学分野において、所属大学では、微細加工技術を利用した、フレキシブルな電気・光学デバイス開発や、重粒子線治療装置に関連する研究開発を対象としています。近隣の研究機関ならびに大学内他学部と連携し、特に医理工学連携分野を中心として幅広い研究開発を、各専門家と連携・融合しながら進めています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
先生からひとこと

私たちの生活にはもはや欠かすことのできないスマートフォンやWi-Fiの電波、テレビのリモコンから出る赤外線、レーザポインターから出るレーザービーム、さらには放射線とも呼ばれるX線やガンマ線などは、それぞれがまったく異なる性質を持つように思われますが、実は、その挙動は、すべて電磁波としてマックスウェルの方程式で完全に解析が可能です。一見、多様で複雑な現象が、極めてシンプルな方程式で記述されることに、感動を覚えます。

工学は、それらの物理現象を人類の生活に応用できるようなデバイスやシステムを創製する学問ですが、手つかずの課題はまだまだ無限にあります。若い世代の皆さんには、興味と感動を持って勉強してほしいと思います。

先生の研究に挑戦しよう!

量子ビーム科学の装置は大型なものが多いですが、より簡易的に紫外線LEDを使うなどすれば、例えば高校物理で学ぶ光の回折現象などを使うと、高分子の一部分を紫外線で変質させて光学素子を作ることも可能です。現在、私たちのグループで使う高分子材料も、実は一般家庭でも手に入る材料を利用しているため、高価な材料や機材を使わずに実験することができます。

これ以外にも、例えば近隣の大学や国立・県立等の研究機関などにおいて電子顕微鏡やX線その他の中小規模装置などが利用できる環境にあれば、これらを利用し、身近な材料がどのような元素でできているかの分析やその測定など、いろいろなものを測ることもテーマとして選定できるかと思います。

農作物の中にどのような微量な元素がどうなっているか、従来の地学で学ぶような鉱物の特徴や、高校生物などにある身近な生物の微細な構造など、自然環境や人間の住環境にある様々なものの分析に多様な量子ビームを用いることができるため、取り組めるテーマは無数に存在すると考えます。

興味がわいたら~先生おすすめ本

すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線

多田将(イースト・プレス)

茨城県東海村から、500キロ離れた岐阜県のスーパーカミオカンデに向けてニュートリノを撃ち込む。この物理学史上最大規模のすごい実験を「T2K」という。スーパーカミオカンデとは、小柴昌俊博士がノーベル賞を受賞したニュートリノ実験施設、カミオカンデをさらにバージョンアップした施設。この本は、日本が世界に誇るニュートリノの実験について、高校での授業をもとにわかりやすく解説している。見学できる機会も少なく、何をやっているかわからない、この大きな施設で行われている実験内容を身近な話題から説明するなど、比較的親しみやすい内容となっており、優れている。


カソクキッズ

(高エネルギー加速器研究機構)

高エネルギーって何?加速器って何?だったら、高エネルギー加速器研究機構による、Webサイト「カソクキッズ」へようこそ。宇宙と加速器のヒミツに迫る物理マンガだ。テーマごとに分かれていて、素粒子や量子ビーム関連の研究を垣間見ることができる。全長約30キロにも及ぶ世界最大の直線型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の特集もおススメだ。

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時空船フォトン号の冒険「量子ビームの世界」

(子ども科学技術白書)

時空船フォトン号に乗った中学生が、タイムスリップ!ビーム施設に出会い、量子ビームについて学ぶ。そんな子ども向けのサイト漫画。量子ビームとは、電子、光子などの基本粒子がレーザービームとして伝播する技術のこと。原子や分子のような非常に小さなレベルでモノを観る・創る・治す・加工する・知ることを可能とする新しい技術だ。ちなみにフォトンとは光子のこと。

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量子ビームサイエンス漫画「隣のとなりのサイエンス」

(宇都宮大学 工学研究科 電気電子システム工学専攻 東口研究室)

サイエンスライターのまた子お姉さんが、宇都宮大学工学研究科電気電子システム工学専攻の東口武史先生のラボを訪問、同ラボ開発の水の窓軟X線生体顕微鏡などを見学する様子をマンガに。量子ビーム関連の研究を垣間見ることができる。

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