植物分子・生理科学

幹はなぜできる? ~植物細胞だけが持つ「細胞壁」ができる仕組みに迫る


山口雅利 先生

埼玉大学 理工学研究科 融合教育プログラム/理学部 分子生物学科

どんなことを研究していますか?

植物の細胞には、動物の細胞と異なり、細胞壁が形成されます。さらに一部の植物細胞には、通常の一次細胞壁の内側に、肥厚した二次細胞壁が形成されます。二次細胞壁は、植物繊維の主成分であるセルロースや、リグニンという高分子により構成されていますが、これらは、持続的で再生可能なバイオマスの材料として期待されています。

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しかしながら、二次細胞壁形成の仕組みはまだ十分明らかにされていません。私はこれまで、二次細胞壁形成に関わる遺伝子全体の発現を制御する「転写因子」に着目して解析してきました。二次細胞壁は主に、樹木の幹の大部分を占める維管束の木部で形成されます。つまり、二次細胞壁形成のしくみを理解することは、廃材など幹の部分を利用する「木質バイオマス」の利活用に有効な植物の選抜や育種などに役立つことが期待されます。

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成長したシロイヌナズナを観察しているところ

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→食品系から、サービス業まで様々です
  • ●主な職種は→研究・開発からSE、営業まで様々です
分野はどう活かされる?

埼玉大の研究室の卒業生や、以前在籍した奈良先端科学技術大学院大学の時に一緒に研究をした学生は、様々な業種・職種で活躍しています。私たちの研究内容をそのまま継続できるような企業は多くありません。しかし、目標達成のために、計画、実行、検証を繰り返し行う研究活動や、目的や成果を伝えるためのプレゼンテーション能力は、様々な業種や職種においても通用すると信じています。

先生から、ひとこと

現在の植物分子・生理学の主流は、シロイヌナズナなどの「モデル生物種」を材料に、植物に普遍的な現象を研究することです。しかし、近年は生物研究を行うための技術が急速に進歩しており、「モデル生物種」以外の植物種を材料とした研究基盤も整いつつあります。したがって、近い将来、特定の植物種のみが有する特徴的な現象についても、遺伝子レベルで次々と解明されることが期待されます。つまり、教科書に載るような発見がまだ数多く残されている学問であると言えます。

先生の学部・学科はどんなとこ

私は、埼玉大学理学部分子生物学科も担当しています。この学科は様々な生物種を対象とした分子生物学や生化学を専門とする教員で構成されており、生物学に関する、幅広くてより専門的な授業や研究が行われています。遺伝子を扱う研究に興味がある高校生にとっては魅力的な学科の一つだと思います。分子生物学科も含めて、埼玉大学には植物分子・生理学の細目に該当する教員が多数在籍しています。植物を研究対象とする教員などで構成された、埼玉大学グリーンバイオ研究センターが、2019年に設立しました。

先生の研究に挑戦しよう

植物の維管束は種によって、形態が大きく異なっています。また同じ個体の中でも器官ごとに形態が異なっています。様々な植物や野菜などの切片を作出して顕微鏡で観察してみると面白いと思います。

興味がわいたら~先生おすすめ本

植物の「見かけ」はどう決まる 遺伝子解析の最前線

塚谷裕一

東京大学理学部で教授を務める著者が、大学院生から助手(現在の助教)の頃の研究活動について書いている自伝です。表題は「最前線」となっているが、研究内容自体は少し古いかもしれません。それでも、研究を進める上でどんなことを考えて進めていくか、学生の立場だけでなく、指導する立場なりの苦労が鮮やかに描かれています。私も、昔よりもより共感する場面が多くなったと感じています。植物分子遺伝学という学問の研究を大まかに理解するには読みやすいと思います。 (中公新書)


微生物の狩人

ポール・ド・クライフ

17世紀、はじめて顕微鏡を使って微生物を観察し、「微生物学の父」と言われるオランダ人レーウェンフックをはじめとして、パストゥール、コッホなど13人の細菌学者の人物とかれらの業績が紹介されています。当時、微生物の概念すら否定されていた時代から、さまざまな発想や工夫を凝らして、新しいものを発見していくプロセスは現代にも通じるものがあります。また、この本に登場する研究者の苦悩や興奮がリアルに伝わってくるので、一気に読み上げてしまいます。 (秋元寿恵夫:訳/岩波文庫)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。