認知科学とは、ヒトの脳が情報を認識・知覚する仕組みを探る学問です。私の専門は認知科学の中でも認知神経科学と呼ばれる分野です。「神経」つまり「脳」に注目するのが特徴です。具体的には、例えば、新しいことを覚えたり、問題の解決法を考えたりといったいろいろな精神活動を行っているときの、ヒトの脳活動を計測します。心理学と生物学を組み合わせて、脳の原理を探ります。
特に追求しているテーマは「脳が外界の情報をいかに取り入れ、認識しているか」という原理の解明です。社会への応用としては、1つ目に、工学的には人工知能の発展につながります。最近は車の自動運転などが大きく取り上げられていますね。脳の認識・記憶・思考・判断には、人工知能などの最新技術を進歩させるような特徴や原理が多くあります。
研究成果は、医療や教育にも活きる
社会への応用の2つ目は、医学の面です。脳の基本原理を探る学問なので、その知見が、脳卒中などの脳の病気を理解し、治療やリハビリに役立つこともあります。3つ目は、ヒトの知性や知能を研究する分野でもあるので、その知見が教育に活きます。例えば、英語教育を始める最適なタイミングは何歳か、早期英才教育は本当に意味があるのかといったことを適切に判断する助けとなります。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→情報系、金融系、公務員
- ●主な職種は→研究職、事務職
分野はどう活かされる?
コンピューターの知識を活かしてGoogle などIT会社に就職した人もいれば、数理統計の知識(実験データの分析に必須)を活かして、銀行や証券などの金融系に就職した人もいます。また私たちの研究室では実験対象が(動物ではなく)ヒトなので、実験を円滑に進めるには対人コミュニケーション能力も必要です。実験で磨いた対人スキル等を活かして、公務員などの事務職に就く人もいます。
当学科の特色は、とにかく所属教員の専門分野が多様なことです。私の専門は脳・神経系ですが、同じ認知科学でも情報通信を専門とする先生、感性やデザインを専門とする先生もいます。進化や文化を背景とする先生もいるため、様々な切り口から研究が行われています。文学部なので少人数教育が徹底されています。
興味がわいたら~先生おすすめ本
サブリミナル・マインド 潜在的人間観のゆくえ
下條信輔
ヒトの心というと、モノとは区別された特殊で崇高な存在として語られることが多いが、本書はそれを覆す。ヒトの心(脳)の半分は「自動機械」であり、意志や意識に関係なくプログラムされた内容をその通りに実行する、カラクリ仕掛けの人形にも近い。心の中のこの「機械」としての側面は、一般社会では「無意識」と呼ばれる。この本は、いかに「無意識」が私たちの精神活動に密接に関わっているかを、わかりやすく解説してくれる。認知科学はヒトの心、つまり脳の仕組みを科学的に探る分野であるが、心の機械的側面を認めることから始まる。「無意識」を知ることは認知科学の第一歩である。
(中公新書)