自然界の動植物は生きていくために様々な機能を持っています。ただしそこから特徴ある機能と構造を探索し、新しい有用物質の発見に役立てるには、化学や生物学といった片方の学問だけでは不十分です。
私はこの問題を解決する融合型の学問分野として生物分子化学の手法を用い、愛媛県の海に生息する海洋生物を中心に研究を行ってきました。研究の第一の目的は「誰も見たことない構造(形)を持つ物質を発見する」ことです。海洋生物は陸上の生物とは異なり、私たちが触れたことのない生物が過酷な生息環境にいることが多いのです。
愛媛の海から海綿動物を入手、未知の有用分子を探索
しかも海洋生物は体内に多くの共生微生物を含んでいます。それを分離・分析することで、多くの有用化合物の発見が期待されます。
愛媛県の海産業は全国でも有数の重要な地場産業です。そこで愛媛県の西側、宇和海の水深100 m付近から入手可能な海洋生物の海綿動物を対象に、未知の物質の探索を実施しました。
これら新規化合物を含む海綿動物の共生微生物の分離を行い、30種以上の微生物の分離に成功しました。この微生物を培養することで、これらが生産する未知の化合物分子の探索を行っています。新しい分子の発見によって、これまで機能がわからなかったタンパク質の理解など、生命現象の解明につながるでしょう。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→化学工業、医薬品、食品
- ●主な職種は→基礎研究、開発研究、品質管理
分野はどう活かされる?
研究で利用している核磁気共鳴装置、質量分析装置、液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフなどは、現在の化学物質の分析観察には必須の装置です。新製品開発での高分子や医薬原料の開発や製品の純度検定、環境分析などで活躍しています。天然から得られる物質は微量です。ですから、分析装置やデータの解析に加え、微量な物質の取り扱いも身につけることができます。卒業生は、こうした技術を生かして社会で活躍しています。現在の生産業で化学物質を取り扱わない企業はほとんどなく活躍の分野は広がっています。
自然界の動植物を対象とした研究は長く、様々な物質が発見されてきました。新物質の発見は新しい生命現象解明のためのツールとしても用いられ、さらなる発見につながっています。最近の分子生物学、生命科学の発展により、以前から知られている分子に新しい機能が報告されるようにもなっています。自然には魅力的な探索資源が多くありますので、これからも不思議な新物質を発見できると考えています。
愛媛大学の理学部は一学科制ですので、1年生は広い分野の基礎を学び、2年生から希望する各コースに分かれて、専門教育を受けます。私の所属する化学コースでは、有機化学、無機化学、構造化学、複合体化学、固体物理化学、分析化学、生物化学、環境化学などの広い分野の研究室で卒業研究を行うことができます。
興味がわいたら~先生おすすめ本
サイエンスZERO
最先端の科学や技術についてその分野の研究者が分かりやすく紹介するテレビ番組。一見ありふれた物事も、科学の目を通してみると興味深く、探求心をそそられる。高校生の未来にある研究者の姿が垣間見えて、将来を考えるのにも役立つだろう。
(NHK)
ナショナルジオグラフィックチャンネル
世界の自然現象や地理、歴史等について、視覚的に美しくリアルに紹介するため、好奇心を誘ってくれる番組。他にも自然関連ではいろいろな番組が存在するが、どれも直接触れることが難しい自然の現象を見ることが出来る点で、ぜひ見て欲しいものばかりだ。
(ナショナルジオグラフィック社)