MEMS(メムス)と呼ばれる、非常にミクロな世界で活躍する電子機械デバイスの重要性が高まっています。例えばインクジェットプリンタのヘッドとか、スマホに搭載されている加速度センサなどや、DNAなど非常に小さな生体試料を調べるツールとしても使われています。
MEMSのような微小組織の大きさは、10ミクロン(100分の1ミリ)くらいのサイズしかありません。人の髪の毛よりはるかに小さいサイズです。従来はこのような微小なサイズの材料を切り出して、強さを調べることはできませんでした。しかし最近、微小世界を調べるナノテクロジーの発展によって、このような微小サイズのものでも強さを計測することができるようになりました。
材料の微細組織を測り、強い新素材の開発に貢献
私は材料強度学・材料評価学を専門にしています。材料は、微視的に見ていくと、原子が集まることで結晶を組み、それらが集合して一つの結晶粒を作り、さらにそれらが集まったもので構成されています。また通常は、一つの結晶だけでなく、異なる結晶がいくつも複雑に配置して、材料が構成されています。このよう材料の構造を「微細組織」と呼びます。
私たちは、微細組織を計測する世界最先端・最高性能を持ったマイクロ材料試験装置を開発しました。これを用い、非常に微小な寸法の材料の強さを計測し、さらに計測したデータに基づいて、計算機シミュレーションを行い、どのような組織で材料を構成したときに、材料の強度が強くなるかを調べています。このような研究を行っているのは、世界中でも私たちの研究室だけです。私たちの研究成果は、強くて、耐久性に優れる新しい材料の開発に大きく寄与すると考えています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→製鉄業、非鉄材料(銅、アルミニウム、チタン)、重工業、金属製品・部品
- ●主な職種は→研究開発、技術開発、生産管理
分野はどう活かされる?
製鉄会社において、破壊や疲労に強い船舶用の厚板や強度、加工性に優れる自動車用鋼板の開発、あるいは、生産性向上を目指した生産プロセスの開発を行っています。非鉄業においては、材料特性の改善を目指した技術開発や上記の生産プロセスの開発、また、重工業においては、船舶や飛行機の材料開発を行っています。
日本刀の鋭利な刃先部の強靭性や、地球上で製造したものとは存在状態が少し違う鉄隕石に含まれる物質の特異な性質についても、このマイクロ材料試験を使って調べています。世界でどこにもできない研究にチャレンジしてみませんか!
熊本大学工学部材料・応用化学科では、素材の製造から、最先端の材料開発まで、幅広く勉強することができます。また、環境保全や資源リサイクルについても学べます。
特に、本学科で開発されたKUMADAIマグネシウム合金は、これまでのマグネシウム合金では到達できなかった高い強度と、難燃性を兼ね備えており、世界最強のマグネシウム合金として知られています。現在、この合金を中心とした国際共同研究も実施されており、世界からも注目されています。今後、この合金の産業化を目指した取り組みも行われています。