土木分野であっても建物・施設や土地・地盤を直接の対象としない学問もあります。それは、土木環境システムという学問です。この分野では、かつては公害や廃棄物などが研究の中心でしたが、温暖化や越境汚染に代表されるような地球環境問題の時代の到来とともに、他の環境系の学問分野との融合が進み、環境学や持続性科学の柱の一つへと発展してゆきました。
森林、農地、都市でフィールドワークとデータ解析、水問題に悩む国や地域へ対策を提案
私が取り組んでいる研究は、水と物質の循環と人間生活の関わりがテーマで、大きく3つあります。まず、森林から河川へ流出する炭素量の推定に取り組んでいます。地球炭素循環における森林と河川の役割を観測とコンピューター計算で示し、温暖化の議論に不足する科学データを提供するのが目的です。
2つ目は、水田をはじめとする農地と流域全体の窒素の循環量の推定を行っています。特に農業が盛んなアジアやアフリカに注目して、肥料や農業用水の適切な管理、経済効果を高める資源の再利用の方法を提案します。
3つ目は、開発途上国と先進国の水利用。住民の使用可能な水量や水質、衛生に関する知識や実践が、どのように感染症や福祉といった水安全性に影響を及ぼすかを調べ、生活向上につながる具体的な方策を検討しています。日本でも、人口が減少する中で日常の水を確保する新しい発想が求められています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→上下水道・道路・エネルギー、環境コンサルタント、環境分析・メーカー、情報システム、研究・教育
- ●主な職種は→環境関連の民間企業や地方公務員の技術職、大学・高専・研究機関の研究者・教員
分野はどう活かされる?
水・土壌・大気等の環境分析や浄化技術の開発。市街地、ダム、空港、港湾などの開発や巨大災害に伴う環境調査。河川や湖沼、地下水の水資源管理に必要な水・汚染物質の動きを予測するコンピューターモデルの開発。県や市町村における上下水道事業や環境管理事業の計画立案、運営。環境関係の研究や高等教育。
失敗の数だけ人は成長すると思います。環境という新しくて古い学問は、とても大きくていつも変化しながら捉え所がなく、挑戦と失敗を繰り返すのに遠慮の要らない学問です。
山梨大学には、地方国立大学の中では環境関係の研究者が充実しており、土木環境システムの分野に加え、環境技術・環境負荷低減や環境動態解析、社会疫学の分野でも第一線で活躍している研究者が集まっています。これらの研究者は、学士課程では工学部の土木環境工学科や生命環境学部の環境科学科、医学部の医学科で、大学院では工学専攻、生命環境学専攻、生命医科学専攻などで教育を担当しています。
また、国内外の水・環境問題の解決に貢献するために設置された国際流域環境研究センターは、分野を横断した特色ある研究を大学院教育(流域環境科学特別プログラム)に活かした実績があります。ここでは、水資源や水災害、環境汚染や浄化技術、微生物や健康・社会問題など多様な研究者が分野を越えて協力し、ネパール、インドネシア、ベトナム、オーストラリア、ガーナ、フランス、そして日本など、世界の地域で起こっている水と環境の問題解決に取り組んでいます。