分子生物学

オルガネラ

膜がないオルガネラ「RNA顆粒」に注目、難病の治療薬へ応用


佐藤亮介先生

近畿大学 薬学部 創薬科学科

出会いの一冊

天地創造デザイン部

原著:蛇蔵、鈴木ツタ、著:たら子(モーニングKC)

動物園や水族館で見かける身近な生物について、「どうしてそのような形をしているのか」、「どうしてそのような機能を持っているのか」など、生物を創造する「デザイン部」の視点から面白く紹介しています。

この本を読むと、当たり前と思っていることに実は深い意味があることに気付かされます。幼児から大人まで楽しめる内容で、生物に興味を持つきっかけにもなると思います。

こんな研究で世界を変えよう!

膜がないオルガネラ「RNA顆粒」に注目、難病の治療薬へ応用

膜で仕切られ専門的に働くオルガネラ

私たちの細胞には核やミトコンドリア、小胞体といったオルガネラ(細胞内小器官)があります。オルガネラはそれぞれ膜脂質に覆われており、それぞれ異なる働きを持っています。

ショッピングモールを思い浮かべてみて下さい。衣料品店、食料品店、美容院などの空間が壁で仕切られており、それぞれのお店が一つの空間で効率よく専門的な仕事をしています。膜脂質はまるで建物の壁のように働くため、それぞれのオルガネラが明確に仕切られることで、効率よく専門性のある働きができます。

膜がないのにタンパク質やRNAが集合

ところが、最近注目されているのが「膜がないオルガネラ」なんです。膜に覆われていないにも関わらず、まるでそこで集会が行われているかのように、特定のタンパク質やRNAが細胞の中で集まって凝集体を作ることがあります。

特にRNAが含まれる凝集体を「RNA顆粒」と言いますが、RNA顆粒にも様々な種類があります。例えば、細胞を一般的なお風呂の温度「42℃」で数分程度温めると、瞬く間に『ストレス顆粒』というRNA顆粒が作られます。しかし、どうしてそのようなRNA顆粒ができるのか、RNA顆粒がどのような働きを持っているのかについて詳しくはわかっていません。

難病と深くかかわるRNA顆粒

近年、RNA顆粒が「がん」や「アルツハイマー病」、「パーキンソン病」といった治療が困難な病気と深く関わることがわかってきています。RNA顆粒の働きについてもっと詳しく知ることができれば、RNA顆粒を標的とした薬が開発できる可能性が生まれます。

私は近畿大学薬学部の杉浦麗子研究室で、RNA顆粒がどのようにしてできるのか、どのような機能を持つのかを明らかにし、治療薬の開発につなげるための研究を進めています。

近畿大学薬学部の杉浦研究室で、ヒトの細胞を用いてRNA顆粒を蛍光顕微鏡で観察しています。
近畿大学薬学部の杉浦研究室で、ヒトの細胞を用いてRNA顆粒を蛍光顕微鏡で観察しています。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

父の影響で幼い頃から釣りが好きでした。中学生の頃にバス釣りの魅力に取り憑かれ、将来はバスプロ(バス釣りのプロ)になりたいと思うようになりました。ところが、高校時代に両親から「バスプロを目指しても良いが、その前に仕事になる免許を取りなさい」と言われ、姉が薬剤師ということもあり近畿大学薬学部に進学しました。

この進学がRNA研究と出会うきっかけとなりました。学部3年生の時に1つの研究室を選び卒業研究を行うのですが、研究内容が面白そうということで現在私が所属している杉浦麗子教授の研究室に入ることになりました。

結局、バスプロを目指すことを忘れ、今度は現在のRNA研究にすっかりのめり込むことになるのですが、これは必然だったように思います。実は、釣りと研究は思考パターンがとても良く似ているんです。釣りが趣味だという人は、もしかすると研究にもハマってしまうかもしれません。

パソコンに繋がっている装置(MinION)を用いて、DNAやRNAといった核酸の配列を決定します。この装置はUSBメモリスティックのように小型で持ち運びも簡単ですが、最先端で非常にパワフルな機能を持っています。
パソコンに繋がっている装置(MinION)を用いて、DNAやRNAといった核酸の配列を決定します。この装置はUSBメモリスティックのように小型で持ち運びも簡単ですが、最先端で非常にパワフルな機能を持っています。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「RNA顆粒ダイナミクスの制御機構解明と難治性疾患治療への応用」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 病院・医療

(2) 薬剤・医薬品

(3) 医療機器

◆主な職種

(1) 薬剤師等

(2) その他医療系専門職(臨床検査技師・理学療法士等)

(3) 営業、営業企画、事業統括

◆学んだことはどう生きる?

薬学部ですので、卒業後は病院や薬局の薬剤師として勤める人が多いですが、製薬企業で研究職や開発職として勤めている人もいます。特に製薬企業で働いている卒業生は、大学生、大学院生時代に培った基礎研究の知識を活かし、新薬の開発につながる研究や、新薬の臨床試験を進めているようです。

私と同じく大学教員として働いている卒業生もおり、近畿大学での研究内容をさらに発展させ、現在も研究を進めています。

先生の学部・学科は?

近畿大学は西日本最大の私立大学で、16もの学部があります。また、「原子力研究所」や「近畿大学病院」、さらにはクロマグロの完全養殖で有名な「近畿大学水産研究所」といった施設や研究所もあります。そのため、近畿大学内での学部をまたいだ交流も活発で、薬学部においても医学部や理工学部、水産研究所などの教員や研究者との共同研究が盛んに行われています。

近畿大学では教育はもちろんのこと、研究にも力を注いでいますので、大学生や大学院生でも高額な最先端の機械を利用することが可能です。

また、年に一度開催される『院生サミット』では、6つのキャンパスから大学生・大学院生が集まり、それぞれの研究成果について発表します。異なる分野に所属する同世代の研究者と交流でき、自身の知識の枠にとらわれない、新たな発想を生み出す大変魅力的な機会となります。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

はたらく細胞

清水茜(シリウスKC)

とても有名な漫画なので知っている人も多いと思います。細胞が擬人化されているため、とにかく細胞に対して親しみを持って読むことができます。

T細胞やB細胞、NK細胞など、文字だけではそれぞれの働きを覚えるのは難しいですが、この本ではそれが理解しやすいように紹介されています。私が中高生の時代にこの本があれば・・・と思ってしまうような本です。


グッドモーニング・キス

高須賀由枝(りぼんマスコットコミックス)

『グッドモーニング・コール』というラブコメディの続編です。主人公が大学生になってからのお話なので、大学での研究室生活や、研究成果を発表するための学会についてなど、大学〜大学院での具体的なストーリーが展開されます。

作者の高須賀由枝先生は、日本各地の大学に加え日本分子生物学会や日本RNA学会など様々な学会で取材されていますので、大学生・大学院生のリアルな日常が所々に描かれています。

一問一答
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

カナダです。2023年9月から、カナダのモントリオールにあるマギル大学に1年間留学していますが、モントリオールは自然が豊かで素晴らしい場所です。秋はメープルの紅葉がとても綺麗で、冬は池や川が凍り自然が作ったスケート場が楽しめます。

Q2.学生時代に/最近、熱中したゲームは?

『ドラゴンクエスト』全般です。ドラクエに育てられたと言っても過言ではないぐらい、ドラクエファンです。両親によると、私はドラクエでひらがなを覚えたそうです。最近は子供の影響で『スプラトゥーン』にもハマっています。

Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

多趣味ですが、その中でも釣りが一番好きです。釣れた時には「なぜ釣れたのか」を考え、釣れない時には「なぜ釣れないのか」、「どうすればこの状況を解決できるか」を考えますが、これが研究を進める上で必要な思考パターンに非常に良く似ています。

2023年9月より1年間、客員教授として研究させて頂いているMcGill大学のThomas Duchaine(写真中央でチョコを持っている)研究室でのクリスマスパーティーです。大学や大学院で留学する人も多いですが、私のように日本の大学に教員として籍を置きながら留学するチャンスもあります。研究に国境はありませんので、研究を通して海外の研究者と交流することはとても重要ですし、留学を通して様々な経験ができるので非常に楽しいです。留学するチャンスがあれば、ぜひ皆さんも挑戦してみて下さい。
2023年9月より1年間、客員教授として研究させて頂いているMcGill大学のThomas Duchaine(写真中央でチョコを持っている)研究室でのクリスマスパーティーです。大学や大学院で留学する人も多いですが、私のように日本の大学に教員として籍を置きながら留学するチャンスもあります。研究に国境はありませんので、研究を通して海外の研究者と交流することはとても重要ですし、留学を通して様々な経験ができるので非常に楽しいです。留学するチャンスがあれば、ぜひ皆さんも挑戦してみて下さい。

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