食生活学

栄養素や緑茶が腸内細菌の働きで肥満予防に役立つことを明らかに~食と健康の大規模調査


栗木清典 先生

静岡県立大学 食品栄養科学部 栄養生命科学科/薬食生命科学総合学府 食品栄養科学専攻

どんなことを研究していますか?

ヒトの腸に無数の腸内常在菌の遺伝子が共生し、健康に役立っています。それは腸内常在菌を調べる測定技術が格段に進歩したおかげでわかってきました。さらに一歩進めて、個々の腸内常在菌と具体的な食品や栄養素との関係を明らかにしたいと考えました。例えば、大豆に含まれるイソフラボンという物質を摂取した時、腸内常在菌がどのように働き、乳がん予防などに効果をもたらすのか調べています。また、緑茶の摂取と内臓脂肪面積の減少に腸内常在菌が関連しているのかも調べています。そして、乳がんや肥満などを予防して、健康長寿になるには、どれくらいの各種栄養素や緑茶を摂取すればいいか、栄養指導する具体策の立案に取り組んでいます。宿主(ヒト)の約70万の遺伝子との関連も調べています。(四季毎の秤量法による食事調査/J-MICC Sakura Diet Study)

約6400件の静岡県民のデータを分析

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さらに、食生活習慣に関連する病気の分布や予防方法などについて、(地区研究と全国研究により) 何千人から何万人規模の大きな集団を対象に調べています。食生活習慣、腸内常在菌、遺伝子(ヒト)、血液成分の違いが、どんな病気と関連し、どんな病気をどれくらい引き起こしやすいか調べ、どのように予防・治療するか検討しています。2025年まで健康状況を追跡調査し、2035年まで調べる国の研究に参画しています。

健康寿命が高いと言われる静岡県民を対象とした、静岡・桜ヶ丘地区研究では、緑茶、柑橘、魚、大豆製品等の食習慣に注目して、生活習慣アンケート、健康診断データ、遺伝子や血液試料などを約6400人分集め、どのような健康状態と関連しているか、全国研究の結果との相違を調べています。(J-MICC Study 静岡・桜ヶ丘地区)

この研究は、動物や培養細胞を用いた実験室内の研究とは異なり、皆さんの親世代、祖父母世代の方に多大な協力していただきました。そして、皆さんやその子どもたちの世代において、個々人の体質に応じて効果的に病気を予防し、健康長寿を延伸する健康づくり政策を作る基礎データとして役立てます。

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日本栄養改善学会東海支部会学術総会を開催 (企画・運営) した学生たちと。一番左が栗木先生 (学術総会・大会長)

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→公務員(行政)、病院、老人保健・福祉施設、食品会社、大学
  • ●主な職種は→管理栄養士
  • ●業務の特徴は→国家資格「管理栄養士」の業務全般
分野はどう活かされる?

食と健康に関する科学的エビデンスに基づいて、保健事業や健康政策の「計画・実行・評価・改善」、病態等に応じた献立作成、個々人の遺伝特性に応じた食事・栄養指導の立案、食品の研究開発を行っています。

先生から、ひとこと

研究機関、病院や健診センター、食品開発の企業などでリーダーシップが発揮できるよう、高度な専門知識と技能を取得する勉強会とPC演習を行っています。実りある研究成果を国民の健康の維持・増進、病気の予防・治療に役立てたいと思っている学生を待っています。多くの学部と大学院修士の学生が研究に取り組んでいます。最近5年間では、4人の博士を輩出し、現在2人が博士の学位を目指しています。

先生の学部・学科はどんなとこ

静岡県立大学・食品栄養科学部は、「食と健康」を科学する大学・学部です。私の所属する栄養生命科学科では、「食と人間の健康に関する専門家」を育成し、管理栄養士の国家試験を受験資格が得られる教育、実験・実習を行っています。学部定員70人(学科:25人)より多い教員が、食品生命科学科と環境生命科学科と連携して、教育、研究指導しています。

先生の研究に挑戦しよう

私たちが参画している研究プロジェクト、J-MICC Study(日本多施設共同コーホート研究)は、10万人以上の人々の健康状況を20年にわたって追跡し、どのような人がどのような環境の下でどのような病気になりやすいかを調べるものです。下記のHPで、各々の研究プロジェクトの内容や成果などを簡易に、図表などを用いて公表しています。そこから情報収集して、興味あるテーマについて調べてみましょう。
・J-MICC Study HP
http://www.jmicc.com/
・J-MICC 栗木清典先生の研究記事
http://www.jmicc.com/feature/feature01-12/
・「J-MICC研究から、こんなことがわかってきています」のページ
http://www.jmicc.com/plus/

興味がわいたら~先生おすすめ本

予防医学のストラテジー 生活習慣病対策と健康増進

ジェフリー・ローズ

ますます重要性が高まる予防医学について、自治体や保健所などで、公衆衛生に携わる人たち向けのテキスト。この分野を目指すなら、難しいが手に取ってみてはどうだろう。 (水嶋春朔 :訳/医学書院)


地域診断のすすめ方 根拠に基づく生活習慣病対策と評価

水嶋春朔

メタボリック・シンドロームなどの生活習慣病対策のために、地域の医療や自治体の保健サービスはどうすればよいのか、実践的な観点で書かれた書。現場で働く人向けではあるが、これからの健康政策を知ることができる。 (医学書院)


食事調査のすべて 栄養疫学

Walter Willett

原著はハーバード大学の教授によって書かれ、教科書の副読本として使用されている。定量の食事調査の方法をはじめ、食事・栄養素摂取量の評価とその留意点、食と健康の関連について書かれ、栄養疫学の基礎を学ぶことができる。 (田中平三:監訳/第一出版)


白い航跡

吉村昭

第二次世界大戦中の医学の進歩に関する海軍 (高木兼寛:英国医学) と陸軍 (森鴎外:ドイツ医学) の話。原因不明の病気に対して、人命を救うか、原因を究明するか。海軍と陸軍の対立と、複雑に絡み合ったスケールの大きな実話。この本から重要なことを読み取り、自身の感受性を高めてほしい。 (講談社文庫)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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