福島先生はコンピュータと人間、それぞれの得意の分野を生かすことで、医師と外国人患者とのコミュニケーションギャップをなくす、新しい翻訳システムを作り出そうとしています。
外国人患者と医師との意思疎通を助ける、人間と協働する翻訳システム
記憶力や処理能力の高さ、24時間休みなく働くことができる稼働力といったコンピュータの力はとても頼もしいものです。しかし、他者とのコミュニケーション能力や想像力・創造力といった部分は、人間の方が得意です。そこで私は、人間とコンピュータの良いところをうまく組み合わせて「協働」できる情報システムづくりをしています。
「協働」するともっと使いやすくなる場面のひとつが「翻訳」です。海外に行くとき、逆に外国人が日本を訪れたとき、スマートフォンなどを使った機械翻訳はとても便利ですが、大きな問題もあります。例えば、脚を怪我した中国人の患者が日本人の医者に「脚が痛くてたまらない」と機械翻訳を通して伝えようとします。日本人にとって「脚」は下肢全体を指しているのに対して、中国語で「脚」というと足首からつま先までのことを指すので、「脚が痛い」と言っても両者が思い浮かべる部分が異なっているのです。また、「どこが痛む?」のような「?」があるかないかで翻訳が全く変わってしまうこともあります。
そこで、まずは医療従事者側が普段どんな言葉を使っているのかを考えます。医療従事者が患者にする質問は、「どこが痛いですか?」「お薬が必要ですか?」など定型文が多いので、正しい翻訳文をシステムに登録します。ここでは機械翻訳を使いません。
医療従事者はタブレット端末を操作して、患者に伝えたいこと・聞きたいことを定型文の中から選べば、正しく翻訳された文章が表示されるようになっています。
しかし患者の方は定型文というわけにはいきません。実際の医療現場では、具合が悪いところはどこなのか、どういうふうに痛むのか、といった患者の情報を正確に知る行動がとられます。具体的には、医療従事者は「どこが痛いですか?」という質問を丸投げするだけでなく、「ここですか?この部分ですか?こちらはどうですか?」と質問を重ねることで、正確な情報を患者から引き出しています。
そこで、例えば「どこが痛いですか?」という質問の場合は、質問と一緒に、タブレット上に人体図を出して患者に選んでもらうようにしました。
今後は、医療従事者の経験に基づいた知識を、自動的にシステムに取り入れることを目指しています。コンピュータ、医療従事者、翻訳者が連携することで、それぞれの知識やノウハウ、技術が、うまく組み合わされ、より便利なシステムを実現する研究を行っています。
スタンフォードの自分を変える教室
ケリー・マクゴニガル 神崎朗子:訳(大和書房)
主に心理学分野の内容を取り扱った書籍ですが、人の行動を変えるために必要な意思とはどのようなものかがわかりやすく記載されています。例えば、目標を立てる際に「1日に○時間勉強をする」よりも、「今日と同じだけ勉強をする」とした方が、無理なく継続できる目標になるなど、具体的な例をユーモアを交えて書かれています。
人に使ってもらうシステムは人を動かすための仕組みが必要になることも多いため、このような知見はとても重要になります。人に使ってもらうシステムを作るエンジニアの人は読んでみると面白いアイデアが出てくるかもしれません。もちろん、本来の想定読者である、自分の行動を変えたい人にもお勧めです。
失敗から学ぶユーザインタフェース
中村聡史(技術評論社)
情報システムは、目的を達成できることが重要視され、ユーザインタフェースは軽視されてしまうこともあります。しかし、情報システムは人に使ってもらうものですので、人間の思考プロセスに合わせたユーザインタフェースを作ることは非常に重要です。この書籍では実際に存在する失敗例を見ることで、どのように改善すればいいかがわかりやすく説明されています。人に使ってもらうシステムを作るエンジニアを目指している人にお勧めします。