物理から医療応用まで。気体と液体が混じった流体研究を紙と鉛筆、数学で
混相流は基礎方程式が確立されていない
流体力学とは、水(液体)や空気(気体)の力学であり、大学で初めて学ぶ物理です。飛行機や船の設計といった工学分野、天気予報や津波の予測といった気象分野などに関連しています(あくまで一例)。素粒子、相対性理論、宇宙物理などに比べると、かなり身近で実感しやすい物理といえると思いますが、だからといって簡単な物理ではありません。
流体力学の研究手法として、現在、実験とコンピュータシミュレーション(数値計算)が主流です。しかし私は、数学を駆使して、紙と鉛筆だけを用いて、手計算で研究することに拘っている、恐らく国内ではレアな研究者です。
中でも、気体と液体が混じった「混相流体」を研究しています。雨の日の水滴(空気中の水)や飲料中の泡(液体中の気体)などが身近な例でしょうか。実は、混相流は根本となる原理(基礎方程式)すら確立されておらず、理論的な基礎があやふやな状態なのです。
泡に超音波が当たるとできる2つの波
コーラのような炭酸飲料をコップに注ぐと、泡が浮かびます。ここに超音波を照射すると、音波が「衝撃波」と「孤立波」という瓜二つの波形に形を変えたりします。衝撃波は聞いたことがあるかもしれません。航空機やロケットに関連してその制御の研究が盛んになされています。
一方、孤立波(その名の通り孤独な波で、粒子性と波動性をあわせもち「ソリトン」ともいいます)は土木工学や電気電子工学で遭遇することが多く、光ファイバーの通信に使われたりもしています。流体力学の話をしていたはずが、このように学際的な話になるのは、本稿に限らず大学の学びの特徴といえます。
医療への応用も数学と物理から
超音波と泡を組み合わせると、尿路結石の破砕、ガンの非切開の加熱治療、超音波診断等、医療に役立てることもできます(医工学、生体力学、バイオメカニクス等といった研究領域)。私もここ数年そのような応用を行っていますが、特徴的なことは、医学や生物学からのアプローチではなく、あくまでも数学と物理を駆使して行っている点にあります。
動機や裏話は後述しますが、私自身、工学部に進んだものの、「技術」よりも、物理現象を発見することと物理を役立てることに関心がありましたし、数学を道具に使うことも好きでした。そのため、大学院生時代から15年間ほど、音と泡のテーマを続けています。
私は適当な反面、神経質でもあり、一方では楽天的(鈍感?)な面もありました。中学生頃から勉強は好きでしたが、良くも悪くも疑い深く、拘りも強いためか、特段興味ある分野は見つからず、消去法的に進路選択を行ってきました。高校時代に、理系の物理系までは迷わず選んだものの、理学部(数学・物理)と工学部(情報・機械)で進学先を迷いました。田舎の出身で、大学がどのような所なのかも何も知らず、担任の先生のすすめで工学部の機械系に進みました(後で正解と気づきました)。
手先が不器用であることから、進学後、実験には不向きと感じました。手に油が付くだけでも一定の嫌悪感を感じるため、工学部の先に自然と用意されがちなエンジニアという進路は、自身には非現実的とも思い始めました。反面、大学の座学はどれも面白く、数学を使って論理立てて抽象的に考えたり、物事の一般化が最も好きでしたので、理学の物理あたりの方が向いていたのではと思ったこともあった気がします。
ただ、高校では数学が最も好きだったものの、大学でイプシロン・デルタ法に直面した時点で、数学科は選ばずに良かったと安心しましたし、大学の物理が事実上数学と化したことで、工学系で物理(力学)を数学的にやるのが性に合っていると感じ、今に至るまでその考え方は変わっていません。
機械工学科の座学では、実学よりも理学カラーの強い力学関連の基礎科目に強い関心を持ちました。幸運だったことに、出身大には、流体力学を極めて数学的に厳密に(加えて難解かつ厳しく)教える先生が数名おられたことに絶大な影響を受け、流体力学の理論分野に進むことを自然と決めてしまっていました。中高時代から教員には一定の関心がありましたが、大学という空間や空気自体を好きに感じ、勉強・教育・研究のいずれにも関心をもったため、大学教員を目指すことにしました。入学時にやりたいことは何もなく、進学後に運と偶然によってたまたま見つかっただけです。特に、恩師との出会いが全てだったと思います。
大学院博士課程を終える頃から固体力学にも関心を持ち、流体に限定したくないと考え始めました。学部時代の印象やイメージはあてにならないなと思い直しました。興味を持ったものをやることが大事と仰る先生が多いと思われ、私もそれに共感する一方で、興味がなくてもやってみれば案外面白いケースは多いことと、興味があってもやってみると実はつまらないパターンもあることをアドバイスします。
◆主な業種
(1) 自動車・機器
(2) 重電系
(3) 大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
◆主な職種
(1) 設計・開発
(2) 基礎・応用研究、先行開発
(3) 大学等研究機関所属の教員・研究者
工学に興味があるけども、どの学科にするか決められないという方には最適です。機械・電気・土木・建築・情報を横断した総合的な工学科(学類)です。研究室も70~80個あり、他大学では考えられないほどに研究分野が多岐にわたっています。たとえば機械工学科の場合、殆ど学ばないと思われる電磁気学・構造力学・防災工学・機械学習なども学べます。必修科目が少なく履修の自由度が高いです。1年生は基本宿舎に入る慣例からかもしれませんが、学生同士(先輩後輩)の仲がとても良いように見えます。
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 「過去にこうすればよかった」と考えたことがほぼ全くありません。上記『テーマや研究分野に出会ったきっかけ』の通り、消去法的に工学部機械工学科に進み、不向きと感じたこともありましたが、何とかなっています。どう転ぶかなんてわかりません。 |
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Q2.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? 大学教員になる前は、細々とした趣味もありましたが、今は殆どなくなってしまいました。現在、仕事ばかりをしており、ワークライフバランスの点からは良くないことかもしれません。ですが毎日確実に充実していますし、この仕事を本当に気に入っています。辞めたいと思ったことも一度もなく、仕事は趣味に等しいです。誤解されないように書きますと、働けという圧は一切なく、楽しいから休日も返上して働いているのが実情です。 |