現在の航空機の主要材料は、アルミニウム合金です。アルミニウム合金は軽くて強く飛行機に持ってこいの材料ですが、弱点が一つあります。塩水を浴びるとさびやすい(腐食しやすい)ことです。飛行機が飛ぶのはおもに海の上が多く、また空港は海の近くに建設されるため、飛行機は意外なほど多くの塩水を浴びています。
アルミニウムなど金属は腐食すると、本来有している強度を維持できなくなり、最悪の場合は事故につながってしまいます。そのため、飛行機に使われるアルミニウムには、さびないように塗装やめっきなどの表面処理がなされており、その結果、問題なく飛んでいます。しかし最近新たな腐食の問題が持ち上がっています。
炭素繊維強化プラスチックのさらなる用途の拡大に期待
問題の発端は、大型の民間航空機に、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic;;通称CFRP)という複合材料が用いられるようになったことです。このCFRPは、ボーイング社のB787やエアバス社のA350という飛行機の胴体や主翼に用いられ、総重量の実に50%を占めるまでになっています。CFRPは、髪の毛よりも細い炭素繊維を入れて強度を高めたプラスチック材料であり、身近なところでは、釣竿やテニスのラケットなどに使われています。しかしCFRP中の炭素繊維が、これまで飛行機で多く使われてきたアルミニウムと接すると、アルミニウムの腐食が加速される現象が生じるのです。この腐食のことを「ガルバニック腐食」といいます。ただ、実際にどの程度ガルバニック腐食が進むむのかといった研究はほとんど行われていませんでした。
そこでアルミニウムの腐食について研究してきた私は、この2つの材料(アルミとCFRP)が接したものを食塩中に浸漬すると、アルミニウムが単独で食塩水中に浸漬された場合よりも腐食量が大幅に増えることを明らかにしました。また電気化学的な方法で、特殊な表面処理をアルミニウムに施すと、アルミニウムの新たな腐食問題を抑制できることが判明しました。
CFRPとアルミニウムとが接しても、アルミニウムが腐食しない防食法が開発されれば、両方の材料が共存できるようになり、CFRPの用途も広がっていくものと期待しています。CFRPは今後、航空機用材料としてだけでなく、自動車用材料としての用途も期待されており、このガルバニック腐食の問題は早急に解決すべき問題として日夜研究に励んでいます。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→航空機、自動車、鉄道、造船・機械、電機、エネルギー、化学・素材など
- ●主な職種は→研究開発、設計エンジニア、品質管理、生産エンジニア、設備エンジニア、技術営業職など
- ●業務の特徴は→いわゆる技術職(エンジニア)に就職するケースがほとんど
分野はどう活かされる?
材料の研究を行っている研究室なので、鉄鋼や非鉄金属業界で活躍する卒業生が多いです。非鉄業界では、研究で扱っているアルミニウムの生産管理部門に就職した卒業生もいます。大学の学部において、技術者として最低限必要な機械工学を学んでいるため、化学・素材メーカーやゼネコンなどの建築・土木業界などでも重宝がられ、様々な分野で活躍しています。
学ぶことは本来、楽しいことであり、人間にだけ与えられた特権です。今のうちにたくさん本を読んで大いに学んでください。以下はココ・シャネルの言葉です。「私のような大学も出ていない年を取った無知な女でも、まだ道端に咲いている花の名前を一日に一つぐらいは覚えることができる。一つ名前を知れば、世界の謎が一つ解けたことになる。その分だけ人生と世界は単純になっていく。だからこそ、人生は楽しく、生きることは素晴らしい」
私が所属している室蘭工業大学の創造工学科航空宇宙工学コースでは、航空機や宇宙構造物に関する幅広い知識が学べます。大学内にある「航空宇宙機システム研究センター」とも共同で研究を行っており、JAXAや道内にあるインターステラテクノロジス、植松電機の設備を使用しての実験もあります。
興味がわいたら~先生おすすめ本
新装版 マックスウェルの悪魔
都築卓司
「空気はなぜ雪のように地上につもらないのか?」これに対し、「空気は雪よりも軽いから」「落ちる途中で衝突して再び上っているから」等、様々な回答が思いつくだろう。答えはぜひ読んで欲しい。本書タイトル「マックスウェルの悪魔」は、混ざってしまった水と酒とをもとの水と酒とに分けてくれる小人として登場する。さらに彼らはエネルギー源のない発電所を稼働させ、動力のない車を動かす。そんな小人の存在の可能性に気づかされる本書。高校物理で学ぶ熱とエネルギーの正体を、分かりやすく、しかし簡単にしすぎず解説した良書。40年以上前、1970年に初版が出たが、最後の章で熱力学的観点から我々が現在暮らす2000年代の社会の予測をしており、その予測がほとんど当たっているのにも驚かされる。 (ブルーバックス)