皆さんの身近にあるスマートフォンに内蔵されているカメラのレンズには、本来のレンズの曲面の厚みを薄くした特殊なレンズが用いられています。このようなレンズ部品を製作するためには、微小で鋭利な刃物が必要となります。工業材料を刃物を用いて正確に切り取り、部品の形とする切削加工は多くの製造業分野で欠かせない加工技術です。
これまでに私は、部品を成形するのに必要な切削工具の開発を行ってきました。特に切削工具の微細化や切れ刃の鋭利化に取り組んでいます。対象となる加工材料には、特殊な材料特性を持つものや、新たに開発されたため材料特性そのものが明らかでないものが多く存在しています。
例えば、エンジンなどの熱機関に使用される部品には、ものすごく硬い材料や高温環境に耐えられる材料が使用されます。これらの材料は加工するのが難しい材料=難削材と言われます。航空機の製造に使用される代表的な難削材料としてはチタン合金、インコネルというニッケル合金、ステンレス鋼、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などがあります。これらの難削材をいかに精度よく、高能率に加工できるようにするため、様々な難削材料の特徴に応じた切削工具を開発し、新たな加工技術の構築に取り組んでいます。
医療分野でも加工技術は活躍
また、工学×医学の力が必要な境界領域の“ものづくり”に着目し、医療の分野で使用されている医療用チタニウム合金材料の加工技術にも取り組んでいます。例えば、歯の再形成に使用される人工歯根の有力な材料として期待されるものに、人骨に近い縦弾性率を持つ、超弾塑性β型チタニウムという合金があります。大きな外力や高い温度環境に弱いという欠点があるために実用に至っていませんが、微細加工技術の面から実現に向けて取り組んでいます。
日本がものづくりで生き残るためにも、他では真似のできないものづくり、付加価値の高いものづくりが求められています。それは工作機械や工具の開発により実現していくのです。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→工具メーカ、工作機械メーカ、難加工部品の製造業
- ●主な職種は→開発、設計、生産技術
- ●業務の特徴は→特殊工具の設計開発(工具材料開発も含めて)
分野はどう活かされる?
医工融合領域などの加工技術の開発においては、細胞毒性のない成分を主体とした工具材料の開発など、医学的な安全性を踏まえた新たな材料開発に取り組んでいます。微細加工技術などを取り込んだ開発を実施する際には、これまでの考え方と異なった見方を導入し、これまで難しかった加工技術を構築しています。
皆さんには将来の夢を見つけて欲しいと思います。それには興味を持つことから始めてみるのが良いと思います。例えば、自動車、家電、パソコンなどの身近なものがどのような部品から構成され、その部品はどのように作られているのかを考えてみると、なぜその形なの?、どうしてその手法を用いて製作するの?など、“なぜなのか?”という疑問がたくさん湧いてくると思います。ここに将来自分がやってみたいことに繋がるヒントがあり、このように探求する気持ちがモチベーションに繋がります。ぜひ夢を見つけてください。
金沢工業大学における先端材料創製技術研究所やFMT研究所では、主に機械工学科の先生方が中心となって研究活動を行っています。これらの研究所では、ものづくり基盤技術である塑性加工技術、切削加工技術、材料設計技術、計測・制御技術を柱として、先進的な“もの”、すなわち新製品や、それらの基礎となる要素技術の創製や高度加工技術と加工機械の開発を行っています。また、医工融合技術研究所では、機械工学科の先生だけでなく情報工学科やバイオ化学科などの異なる工学分野の先生方と他大学の医学部や薬学部の先生方と協力し、工学と医学(薬学)を融合した生体工学領域において、医療従事者と工学者が共同で、人にやさしいものづくりを目指しています。
興味がわいたら~先生おすすめ本
ナッちゃん
たなかじゅん
零細鉄工所の娘のナツコが父の鉄工所を継いで奮闘する物語。鉄工所の仕事を通して成長する姿を感じてほしい。モノづくりにはここで紹介されているような地味な技術が非常に多いが、ハイテク技術を支えているのもこのような技術が継承されているからだ。モノづくり基盤技術である塑性加工技術、生産加工技術、材料設計技術、計測・制御技術は実際の製品を見ただけでは想像したりすることは難しいため、まず単純な加工技術を題材とした部分に着目して読んでほしい。モノづくりの基本が少しは理解できるだろう。その上で、こうした加工技術の高度化が必要であることを理解してほしい。 (集英社)