中国哲学・印度哲学・仏教学

新しい出土資料の発見で定説が変わるか。古代中国における儒家思想の歴史を再構築する


末永高康 先生

広島大学 文学部 人文学科 哲学・思想文化学コース/人間社会科学研究科 人文社会科学専攻 人文学プログラム

どんなことを研究していますか?

中国では、辛亥革命以前に限っても、ひとりの人間が数百年かかっても読み切れないほどの大量の文献が残されています。それらの文献を読み解きながら、その時代の人々が何を考え、どう生きていたのかを明らかにしていくのがこの学問です。

近年は、「新出土資料」を利用した研究がホットで面白い分野です。前世紀の後半以後、中国では戦国時代、秦、漢期の墓から大量の書籍が出土しています。『論語』や『老子』といったよく知られた文献も出てきていますが、これまで全く知られていなかった文献もたくさん出てきていて、われわれの想像以上に、この時期の人々が考えていたことが広く多様であることがわかってきました。

竹や木のふだに書き記された関係資料が中国で多く発見

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私が研究しているのは諸子百家の思想、特に儒家の思想の歴史です。近年では、竹や木のふだに書き記された古い時代の書籍が数多く発掘されていて、これまでの研究では秦の始皇帝が天下を統一して以後に作られたと考えられていた書籍が戦国時代の墓から出てきたり、すでに滅んでしまってその内容を知ることのできなかった書籍が新たに発見されたりしています。現在は、これらの新資料が与える知見をもとにして諸子百家の時代の思想の歴史を再構築していく作業に取り組んでいます。

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新出土資料の報告書

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●業務の特徴は→卒業生の就職先は様々で、公務員になった人もいれば、出版関係や金融関係(銀行)などに就職した人もいます。具体的な業務も様々です。
分野はどう活かされる?

専門を直接に生かした職業となると、学校の先生(特に国語や社会の)に限られますが、ただ、文学部の授業では、常に「自分はどう考えるのか」を問われるものですから、ここで鍛えられた思考力や表現力、問題解決のスキルは何をするにしても役立っているはずです。もちろん、この分野の研究者として国内、国外で活躍している卒業生もいます。

先生から、ひとこと

よりより考え方・生き方を見出していくためには、時代も場所もこえて「他者」と対話し、自分自身の考え方を反省する必要があります。この「他者」には、ある時代を真剣に生きた過去の人々も含まれます。しかし、普通の人が様々な言語で書かれた過去の文献とじかに向かい合いながら、彼らと対話することは困難です。その仲介役をするのが、この学問領域の使命だと考えています。

先生の学部・学科はどんなとこ

文学部人文学科の哲学・思想文化学コースに中国思想文化学の専門が置かれています。中国思想文化学の現在のスタッフは3名で、中国の古代から近世、さらに日本漢学までの領域をカバーするスタッフをそろえた研究室は、日本では数少ない貴重な存在です。

大学院を設置する本学は、研究者養成の使命も担っていますので、学部4年間、大学院(博士前期課程2年と博士後期課程3年)を一貫した教育プログラムを用意しています。学部の専門教育は、演習を中心としており、漢文読解能力や文献分析能力の向上を図っていきます。大学院では、原典のより高度な読解を通じて、漢文読解能力のさらに向上をさせるとともに、特に博士後期課程では、世界に通用する論文を自ら書きあげられるように指導をしています。なお、同じ哲学・思想文化学コースには、印度哲学やチベット仏教学の研究者も在籍しています。

先生の研究に挑戦しよう

教科書に書かれていること、本に書かれていること、それが何にもとづいて書かれているか、その根拠となる原典にあたってみてください。中国哲学の原典の場合、訳本も多く出ていますし、そもそも漢文で書かれていますから、歯が立たないわけではないと思います。そして、その原典で書かれている内容から、その本に書かれていることが本当に導かれるか自分の頭で考えてみてください。もしかしたら、あなたの方が、その本に書かれているのよりも、よりよい解釈を導くことができるかも知れません。

興味がわいたら~先生おすすめ本

地下からの贈り物 新出土資料が語るいにしえの中国

中国出土資料学会:編

今の若い世代に、中国の古い時代にもっと興味を持ってもらいたいと、中国学の専門家が編纂した書籍。第1章の「出土資料でわかること」では「祀りと占いの世界」「諸子百家はどう展開したか」「経学とは何か」「儒家思想が台頭するまで」あたりが、第2章の「どこから何が出てきたか」では「馬王堆」「銀雀山」「阜陽双古堆」「郭店と<上博楚簡>」あたりが、中国哲学と関連が特に深い。新しい資料の出現がこれまでの考え方を覆していくという、学問のもっともスリリングなところを存分に味わえる。 (東方選書)


儒教とは何か

加地伸行

「宗教とは、死ならびに死後の説明者である」と「宗教」を明確に定義して、死の問題を中心に、儒教の宗教性について解き明かしていく。倫理の教科書などに描かれるのとはまったく異なる儒教の姿が描き出されている。現代の日本人の生活にも宗教としての儒教が深く根付いていることに気づかせてくれる一書。 (中公新書)


道徳を基礎づける 孟子vs.カント、ルソー、ニーチェ

フランソワ・ジュリアン

現代フランスの哲学者による孟子論。孟子と西洋の思想家との思想的対話が試みられていて、孟子の「哲学」が持つ射程の広さを感じさせてくれる。『孟子』を古典として読む日本人とは全く異なる視点からの分析が新鮮。 (中島隆博、志野好伸:訳/講談社学術文庫)


荀子

内山俊彦

荀子の生涯と思想の概説書として最もすぐれたもの。戦国時代最末期の激動の時代を生きた荀子が、時代の与える思想的課題にいかに取り組み、いかに解決して、あるべき世界のあり方を示していったか、性悪説だけではない荀子の思想の姿が多角的に描き出されている。 (講談社学術文庫)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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