ジェンダー

LGBTQ(性的マイノリティ)当事者の抱える自殺、不登校、いじめなどの課題を明らかに~その予防とライフプランの支援~


中塚幹也 先生

岡山大学 医学部 保健学科 看護学専攻/保健学研究科 保健学専攻 助産学コース/岡山大学病院ジェンダーセンター、岡山大学病院リプロダクションセンター

どんなことを研究していますか?

心の性(性自認)と身体の性とが一致しないトランスジェンダーのうちでも、ホルモン療法や手術療法を希望して医療施設を受診する人々は「性同一性障害」と呼ばれます。世界的には、「障害」と言わなくても医療が受けられたりいろいろな権利が保障されたりする国が増えており、「性別違和」や「性別不合」などの名称が使用されています。

岡山大学ジェンダークリニックは、日本で最大の診療拠点であり、全国から多くの当事者が受診されています。

すべての人の多様性を認めあう社会の実現に向けて

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私は、ジェンダークリニックで性同一性障害の方のホルモン療法や手術を行っています。性同一性障害をはじめとするLGBTQ(性的マイノリティ)当事者は子どもの頃から自分の心の性(性自認)や好きになる性(性的指向)のことで悩んだり、周囲の無理解からいじめを受けたりしやすく、自殺したいと思ったり不登校になったりする場合もあります。

もともと、産婦人科医として性教育やライフプラン教育のために学校に出向く機会も多くありましたが、最近は学校で、多様な性のあり方やLGBTQ(性的マイノリティ)当事者のライフプランをお話しすることも増えました。

LGBTQ(性的マイノリティ)の子どもが普通に生活を送ることができる社会は、誰もが生きやすい社会です。学校教育の中で多様性を認めることをどのようにすれば実感してもらえるかを考えています。また、同性パートナーシップ制度の普及や性同一性障害の診療拠点の拡大、治療の保険適用など、種々の社会的課題の解決に向けても取り組んでいます。

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産科スタッフや精神科スタッフなどに向けた「妊産婦のメンタルヘルス研修会」にて講演する中塚先生

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→周産期医療、生殖医療、母子保健、教育
  • ●主な職種は→助産師、保健師、養護教諭、胚培養士、大学などの教員や研究職
  • ●業務の特徴は→困っている方々を支援する。社会的課題を研究し発信する。
分野はどう活かされる?

・病院や助産所での妊婦の診察や出産の支援
・市町村の乳児訪問や子育て広場などで育児の支援
・生殖医療の現場で、不妊症(妊娠しない状態)や不育症(流産や死産を繰り返す状態)カップルの支援
・LGBTQ(性的マイノリティ)当事者への支援、性同一性障害の診療・看護
・学校での性教育やライフプラン教育
・思春期から更年期までの女性の一生を支援
・大学でリプロダクション(生殖)全般の教育や研究

先生から、ひとこと

楽しくなければ「大学」ではない。失敗してもよいので、興味のあること、新しいことに挑戦しよう。多様性を認め合い、人にやさしくなろう。

先生の学部・学科はどんなとこ

総合大学であり、いろいろな学生、いろいろな教員と出会うことができ、一生涯にわたって役立つ教養教育も充実しています。

医学部の歴史は150年、看護師や助産師の教育は100年、臨床検査技師や診療放射線技師の教育も約50年になります。このため、多くの先輩が国内外で活躍しています。また、医学部保健学科棟は大学病院に隣接しており、移植医療など、最先端の医療を身近に学ぶことができます。

性同一性障害に関しては、日本最大の診療拠点、不育症に関しても中四国でも大きな診療拠点になっているため、他の大学では学ぶことのできないことが学べます。また、総合大学のメリットを生かして、医学部と農学部が共同で、胚培養士(体外受精のときに精子、卵子、受精卵などを取り扱う職種)を養成しています。

岡山は「晴れの国」(日本で一番晴れの日が多い)、岡山駅は新幹線も止まり、中四国の交通の要(かなめ)となっており、移動に便利。適度に都会、適度に田舎で暮らしやすい県です。留学しやすい4学期制をとっており、チーム医療の学習などで海外研修へ行く学生も多く、国家試験の合格率も良好です。

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保健学研究科助産学コースの実習風景。大学院で助産師になるための学習中。

先生の研究に挑戦しよう

【テーマ例】
1.学校の中で、性別に関する記載や規則などのうち、よく考えると不必要な物を探してみよう
2.「今は仕事に打ち込みたい」「今は良い相手がいない」ということで妊娠を先延ばしにするため卵子を凍結保存しておく女性が増えている。そのメリットとデメリットは?
3.妊婦さんの血液を調べるだけで、胎児の染色体異常がわかるようになった。あなたは検査に賛成ですか?反対ですか?

興味がわいたら~先生おすすめ本

封じ込められた子ども、その心を聴く 性同一性障害の生徒に向き合う

中塚幹也

「性同一性障害」という言葉は知られるようになったが、現在の規則、法律、制度などの多くは「そのような人はいないもの」として作られており、当事者を取り巻く環境はいまだ厳しい。「スカートをはくのが嫌」「プールの授業を休んだ」「リストカットした」。自分の気持ちを言い出せない子どもたち。封じ込められた彼らの心を、最も近くで聴いてきた著者が感じたのは、子どもへの対応の重要性である。LGBTQ(性的マイノリティ)についての知識がないせいで身近な人を傷つけないためのすべての人たちに向けた入門書である。【すべての人におすすめ:高校生以上】 (ふくろう出版)


心理の専門家でないスタッフのための流死産・不育症カップルへのメンタルサポート実践の手引き「グリーフケアとテンダーラビングケア」(DVD2枚組付録)

斎藤滋、中塚幹也

4割の女性は流産を経験する。その時に、感じる悲嘆(かなしみ)は大きい。2回以上の流産や死産を繰り返す状態は不育症と呼ばれる。周囲の人々は腫れ物に触るように、そのことを話題にできない。孤独感を感じる女性が多い中で、医療スタッフはどのように対応するのか?いろいろな場面を見ながら、あなたならどうするか考えてみよう。フイクラボ(http://fuiku.jp/index.html)でも動画配信中。【医療スタッフ、特に看護師、助産師を目指す人におすすめ:高校生以上】


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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