不整脈とは、心拍数や脈打つリズムが一定でない状態のことです。心臓の収縮は、電気刺激が心房、心室へと伝わり消失することで、周期的な収縮が行われています。電気的刺激が心臓にとどまり続けると、心臓が小刻みに震え十分に機能しない不整脈の一種である細動になります。心室で細動が起きると、体内に血液を十分に送ることができなくなり死に至ることがあります。この要因の一つに、細胞の壊死や梗塞のかたまりなどによる電気刺激の伝播の障害が考えられています。
応用数学の分野の中で、私の専門は解析学・非線形偏微分方程式論です。様々な現象は、偏微分方程式と呼ばれる方程式で記述できます。例えば、天気予報は、風速・風力・気温・湿度などの方程式をコンピュータで解くことで、明日の天気を予測しています。この方程式は、微分の親戚である偏微分を含んだ方程式になっており、一般に、解の公式がありません。そのため、天気予報では、解を求めるためにコンピュータを使ったシミュレーションをしているわけです。偏微分方程式の解の様子がコンピュータで計算しなくても数学からわかるようになれば、様々な問題が解決するようになるでしょう。
偏微分方程式の研究の応用として、不整脈の数理的なメカニズムの解明を行っています。電気刺激の伝わり方も、非線形偏微分方程式で記述されます。それらの非線形偏微分方程式の解が時間的にどのように変化するか調べることで、不整脈の有無を調べることができます。私たちは、方程式をさらに簡単にするような非線形偏微分方程式を作り出す研究を行い、それを解くことで、不整脈と心筋梗塞巣などの障害物の形状との関係を調べています。一般に、数学が生命や医療に関連する分野に応用されるとは思われていないようですが、実は大いに役立っています。
動物の模様を再現してみよう
哺乳類の模様は、胎児のときに色素を活性する物質の濃度と抑制する物質の濃度に依存して形成されると考えられています。それらの化学物質は反応するだけでなく、拡散もします。拡散とは、水にインクを垂らすとだんだんと色が一様になっていくように、化学物質が濃度の高いところから低いところに広がっていく現象を指します。
反応と拡散を表す偏微分方程式をコンピュータでシミュレーションすると、図のように様々な動物の模様を再現できます。簡単な仕組みで、自発的に模様ができます。このように自発的に形成される現象を、自己組織化といいます。生命は自己組織化をうまく利用しています。自己組織化は新素材の開発などにも重要な役割を担っており、数学から自己組織化の仕組みを調べています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→製造業、情報関連産業
- ●主な職種は→研究開発
- ●業務の特徴は→医療関連や金融関連などのシステム開発
分野はどう活かされる?
現象を数式にして解決する問題解決能力が、システム開発に活かされています。モデリング力は、現象を理解し、その因果関係を調べて、必要な情報を選び出して数式にする能力で、これからのデータサイエンスや新たなイノベーションには、欠かすことのできない力になるでしょう。
日常の疑問に耳を傾けて見てください。それが「勉強」から「考える」への第一歩です。複雑な自然現象や社会現象を解明するために必要な数学を、一緒に作っていきましょう。
総合数理学部は、2013年に開設された新しい学部です。現象数理学科は、現象を数式にするモデリングと、その数式をコンピュータでシミュレーションする力、数学で解析する力を身につけ、数学を社会でどのように活かすことができるかを学ぶことのできる学科です。