経済政策

経済政策を正しく評価できているのか~リアルタイム・データ分析による政策評価


小巻泰之 先生

大阪経済大学 経済学部 経済学科

どんなことを研究していますか?

経済の変動は、時には失業率を高めるなど、好ましくない状況を生み出します。2008年にはリーマンショックと呼ばれる大幅な景気悪化がありました。また、2020年には新型コロナ感染症の世界的な拡大で、経済活動は大きく悪化しました。経済の将来を見通し、人々が安心して暮らすために、政府は経済政策を実施します。しかし、経済政策が必ずしも効果を発揮するとは限りません。その原因を探るためには、経済政策をどう評価するかが重要となりますが、実施された経済政策の評価はほとんど実施されていません。また、経済政策を評価する時期によっても、その評価が大きく変わることも起こります。

そのためにはリアルタイム・データが必要です。リアルタイム・データとは、意思決定を行った時点で利用可能な情報のことです。経済成長の指標であるGDP(国内総生産)は、まず推計値である速報が出され、その後確定値が出されますが、その間にデータが変わることがあります。しかし、過去を評価する場合には、改定された統計情報をもとに行われるため、誤った結論を導く場合があります。私は刻々変わるGDPのリアルタイム・データの作成と、その影響についての実証的分析をしました。

消費税増税の影響、経済の実像が即座に把握できない

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例えば、1997年の消費税増税の際、税率引上げ前の1-3月期には駆け込み需要から消費が増加しました。しかし、当時はこれを消費の実勢が強いと見誤り、税率引上げ後も状況が把握できないまま、逆に金融引き締めをすべきとプラスの評価が与えられてしまいました。2014年の増税時も、同様のことが起きました。

これは、経済の状況を把握できる情報(GDPなどの経済統計)が入手できなくて推計値での判断に頼らざるを得ず、経済の実勢を即座に判断できないことにつながり、企業の生産行動に大きな影響を与える結果となりました。このように、実際の経済の全容がわかるまでは時間を要します。この実際の経済状況を認識するまでの「認知のラグ」の存在が、民間企業などの意思決定や市場価格の形成に影響を与えることを、具体的な経済政策を題材に検証し、明らかにしてきました。

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日本では高齢化・過疎地域でのライフラインとして、地域住民の自発的な動きにより設立された共同売店があります。沖縄や本州の中山間地域で、70~80店舗ほどあります。共同売店は高齢者等にとっての健康管理、コミュニケーション、生き甲斐対策及び相談事業などの、社会福祉サービスの拠点としての意義が認められています。しかし経営基盤は弱く、存続が厳しい状況です。共同売店に訪問して、存続の可能性についてデータ収集及び実情の調査を行っています。

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→民間銀行
  • ●主な職種は→営業、資産運用
  • ●業務の特徴は→信用(貨幣)を取り扱う業務
分野はどう活かされる?

世の中に資金が供給され、それが活かされることで経済活動は回っていきます。しかし現在は、銀行の融資業務は停滞しています。どうして停滞しているのか、どのようにすれば活発になるのか。こうしたことの分析に、大学での勉強が活かされるのではないかと考えます。

先生から、ひとこと

経済活動は私たち自身にとって身近なものであるため、その理解は通説的な理解や感覚的な理解に留まっている場合が多いです。また、情報通信システムが発達して、現在誰でも簡単に情報を手に入れることができます。しかし、情報の中にはノイズ(偽の情報、孫引きによる不確かな情報など)も含まれています。私たちはその情報の中から、どれが正しいのか、また価値のあるものかを選別することを求められています。経済学を学ぶことを通じて、自分で調査し、情報を選別・分析する能力を養ってください。

先生の学部・学科はどんなとこ

中規模大学ですが、ハード面は大規模大学と遜色ありません。学生の皆さんはそのような環境で自由に闊達な大学生活を送っています。また、地域との研究・業務面での連携が強く、少子高齢化を迎える日本の問題を考える上では最適な大学です。

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工場見学の授業で、愛知県豊橋市のエニシング社を訪問。100年近く前の織機をもとに、酒屋さんなどが使用する分厚い前掛けを生産する会社で、第三者事業引継ぎで若手経営者が事業をしています。現在では海外での売れ行きも好調です。

先生の研究に挑戦しよう

皆さんは、将来をどの程度正確に見通すことができますか。将来を正確に見通すためには、何があれば良いと思いますか。考えてみてください。また、何も感じずとも流れる経済活動の中から、意識的に課題を見出すことも重要です。経済社会の流れを、因果関係をもとに自分の頭で考えてみましょう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

アリとキリギリスの日本経済入門

土居丈朗

舞台は「昆虫村」。会社でコツコツと働くアリ、土地に手を出して失敗するキリギリス等が登場し、バブルの形成と崩壊、ムダな公共投資や財政危機などをわかりやすく描いた良書。 (ちくま文庫)


父が息子に語るマクロ経済学

斎藤誠

大学で学ぶことの大切さや意味を伝え、歴史の中で現代の経済社会を見つめる癖をつけてほしいと願いつつ、マクロ経済学の基礎について解説。全10講義でしっかり学べる。 (勁草書房)


21世紀の長期停滞論

福田慎一

やや難しい本かもしれないが、新型コロナを含む経済停滞の状況を理解するにはうってつけの本。いろいろと専門用語が説明もなく使われているが、専門用語を理解するのは、幼児期の「積み木」の一つ一つのパーツの意味を理解して使うことと同じ。挑戦してみてほしい。 (平凡社新書)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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