社会心理学

増加する「新型うつ」の予防のために~人と社会との相互影響からの解明


坂本真士 先生

日本大学 文理学部 心理学科/文学研究科 心理学専攻

どんなことを研究していますか?

私は「心の問題」に社会心理学から挑んでいます。臨床心理学や精神医学とも近い領域ですが、私が基盤とするのは社会心理学です。私の専門を「臨床社会心理学」と紹介することもあります。ここでは私のいくつかの研究テーマから、2つ紹介します。

最近の大きな研究テーマの一つは「新型うつ」です。これまでよく知られていたうつ病と違って、嫌な出来事があってうつ状態に陥っても、余暇を楽しく過ごすことはできるという特徴があり、最近では患者数も増えているようです。しかし、「新型うつ」にはまだきちんとした定義がなく、原因や治療方法もよくわかっていません。

そこで、まずはこれまでの事例から「新型うつ」の定義づけを行ない、現在患者が増えている「新型うつ」が社会的にどう認識されているのかを考察しました。病気に関する社会の認識のされ方は、「自分が病気である」ことを人に打ち明けやすい状態を作る場合もあれば、逆の場合もあり、患者の心理に大きな影響を及ぼします。精神医学の研究者とも積極的に共同研究を行っています。これらの研究をもとに、予防や治療に役立てようとしています。

自殺報道による自殺の連鎖を断ち切る~メディアが心理に与える影響

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箱根駅伝やドラマで特定の大学がクローズアップされると受験生が増えるように、私たちの心理は社会全体の意見やイメージ、メディアによる報道の仕方などに大いに左右されます。個人の心理と社会の関係を研究する社会心理学の中で、私は自殺について研究しています。特に力を入れている研究テーマの一つが、メディアによる自殺報道です。

日本では、いじめを苦にしたとされる自殺が相次いだことがありました。また、自殺の手段を報じることで、その方法を模倣した自殺が相次いだこともありました。なぜそのようなことが起きてしまったのでしょうか。この問いに、調査だけでなく、実験的手法を用いて取り組んでいます。自殺に関する報道のされ方が、見ている人の心理にどのような影響を与えるのかを明らかにすることで、今後どうすればこのような不幸な出来事が起こらずにすむのか、その方法を考えていくことにつながっていくと考えています。

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ゼミでは複数に分かれ、アンケートを分析し議論します

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→サービス業、情報通信業、卸・小売業、医療・福祉
  • ●主な職種は→営業、企画・管理、販売・サービス、技術職(SE)、専門職、公務員
分野はどう活かされる?

社会心理学は、心の不思議を個人と社会の両面から科学的に探究する文理融合の学問です。そのため、論理的な思考、情報処理と結果の提示から、人の気持ちや行動の理解まで、学習過程で身につくことはたくさんあり、学生はそれぞれの関心と強みを活かして多様な業種・職種で活躍しています。また、専門性をより高めるため大学院に進学し、心理職として活躍する人もたくさんいます。

先生から、ひとこと

社会心理学を学ぶことで、社会全体、身近な人間関係、そして自分自身に対して多様な見方ができるようになります。それまでの自分の視点がいかに狭く、偏っていたかがわかるでしょう。そしてこの視点の広がりは、社会全体から自分自身までをよりよく理解することにつながり、ひいては社会や対人関係における問題の解決、さらに自分の心の安定にもつながるものです。

先生の学部・学科はどんなとこ

日本大学文理学部心理学科は、心理学を学べる大学としては日本で4番目に古く、私学では最古の歴史を持ちます。社会心理学の他に、認知心理学、臨床心理学、生理心理学、環境心理学、発達心理学などの心理学領域も学べます。このうち社会心理学については2名の教員が担当しています。岡隆教授は主に実験的手法を用いて社会心理学の基礎的な研究を、私は主に調査的手法を用いて応用的な研究を行っています。社会心理学に関して、研究領域や手法が異なる2名の教員から学べることは、大きなメリットです。

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最後のゼミ、翌年からのゼミ生も招待し研究発表会です

先生の研究に挑戦しよう

・最近起きたなんらかの出来事や事件(新聞やテレビで取り上げられているものでも、身近なものでも構いません)を一つ考え、その出来事や事件に影響を与えた可能性のある物事(心理学では「要因」と言います)を複数考えてみましょう。そして、それらの要因を、人に関するものと社会・状況に関するものとに分け、それらが出来事や事件の発生にどのように影響を及ぼしているか、具体的に考えてみましょう。可能性は一通りではないので、複数考えてみましょう。

・ハロウィーンの頃になると渋谷に多くの人が集まってちょっとした騒ぎになります。数年前には逮捕者が出たことがありました。では、逮捕された人たちは、どうして逮捕されるまで違法行為をエスカレートさせてしまったのでしょうか。「その人らがアホだから」という単純化した考えは捨てて、その他の可能性(特に、周囲の人や環境からの影響)を考えてみましょう。

・自分自身についてよく考えることがある人、いませんか。「汝自身を知れ」というギリシャの格言にあるように、自分について考え、内省を深めることはとても大切です。でも、このやり方を間違えると、誤った自己理解につながったり、不安やうつを強めてしまったりする可能性が知られています。では、自分自身について考える際に、どのようなことに気をつければ、偏りのない、より良い自己理解につながると思いますか。保護者の方や友だち、先生とも話をして、考えてみてください。

興味がわいたら~先生おすすめ本

自分のこころからよむ臨床心理学入門

丹野義彦、坂本真士

本書の特徴は3つある。一つ目は、生徒や学生が陥りやすい不適応である抑うつ、対人不安、妄想と自我障害を取り上げている点。二つ目は、不適応に関して社会心理学からも説明しており、臨床心理学だけでなく社会心理学についても知ることができる点。三つ目は、心理学的な研究成果をもとに、自分のこころを通した「一人称的」な理解も可能となる点だ。本書では、心理学的な知識に基づいて自分を理解し、不適応に陥る前に自分で気づいて対応できるようになることを意図している点で、身近な問題として読むことができるだろう。 (東京大学出版会)


はじめての臨床社会心理学 自己と対人関係から読み解く臨床心理学

坂本真士、佐藤健二

1冊目に挙げた本とは逆パターンの本である。つまり、社会心理学の入門書でありながら、その延長として考えられる不適応の問題についても解説している。臨床社会心理学の全体像をつかむのに適している。 (有斐閣)


眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学

亀田達也:監修

社会心理学の研究テーマと私たちの身の回りで起きることは、密接に関連している。そして、身の回りで起こることについて実験などの科学的な手法によって研究し、人の社会行動の法則を見つけ出そうとしている。よって社会心理学を学ぶためには、研究の方法論や理論についても知っておく必要がある。実際の研究例を通して説明している本書は、社会心理学研究の実際を知るために適している。図表が多いのも良い。 (日本文芸社)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。