社会システム工学・安全システム

製品の流通にかかわる難問を数理モデルで解く~高効率な物流のしくみを設計


渡部大輔 先生

東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科/海洋科学技術研究科 海運ロジスティクス専攻

どんなことを研究していますか?

海を隔てて遠く離れた外国で作られた製品は、トラックや船舶で運ばれて、倉庫で保管された上で、必要な時に必要な量が店頭に並ぶことになります。このように物を運ぶ過程は、輸送や積み降ろし、保管、在庫管理などの様々な空間的・時間的隔たりを埋める活動で構成されています。その際、工場や倉庫などの施設をどこに建てればよいのか、どの輸送経路を通ると最も移動時間や費用がかからないかなどの問題を考える必要があります。

「費用や時間をかけずに物を運べるようにするには」を考える

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社会システム工学・安全システムという学問分野は、都市・経済・生産・交通などの社会の諸活動を対象にして、現象を抽象化した数理モデルを用いて問題解決を支援する「オペレーションズリサーチ(OR)」と呼ばれる研究手法がよく用いられています。この手法では、問題を見つけ出し、的確に数理モデルに落とし込み、その結果を社会に還元するという方法をとります。

その中で、私は物流を専門とし、製品の流通にかかわる数理モデルを構築し、安全かつ効率的な物流を実現するための研究を進めています。インターネット通販のように、注文や決済の電子化が進んでも、商品が手元に届くまでには、地道にていねいに運ぶ物流が必要不可欠です。費用や時間をかけずに物を運べるようにするために、効率性を高める必要があります。その一方で、商品の破損等の防止やテロ対策のための貨物検査が行う必要があるなど、安全性も重要な課題です。

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研究室の様子

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→物流業、流通業、運輸業、測量業、製造業、公務員
  • ●主な職種は→総合職、現業職、上級職(地方公務員)
  • ●業務の特徴は→総合職として、技術系の能力も求められている業務に就くことが多い
分野はどう活かされる?

物流業に就職した卒業生は、物流センターにおける業務をひと通り経験した上で転職し、豊富な業務知識を生かしたコンサルタントとして活躍しています。測量企業に就職した卒業生は、専門性の高い地理空間解析とプログラミング能力を活かして、物流業に関連した地理情報システムの開発業務を行っています。

先生から、ひとこと

社会に出たら、「文系だから数学ができない」、「理系だから英語ができない」という言い訳は通用しません。まずは文系、理系科目ともに、苦手意識を克服してみてください。本学科での文理融合の教育を通じて、物流に関する専門性だけでなく、幅広い教養も身につけ、国際的に活躍できる社会人となることを目指しましょう!

先生の学部・学科はどんなとこ

海洋工学部流通情報工学科では、企業の国際的な物資・情報の流れを計画・管理するロジスティクスについて、少人数体制による理論と実践をともに重視した教育を行っています。カリキュラムは工学系・情報系・社会科学系を融合した大変ユニークな構成で、幅広い知識を習得できます。このため一般の工学部と異なり、女子学生も数多く在籍しています。「社会システム工学・安全システム」分野に関係した講義は多数ありますが、物流システム工学と物流リスク工学の講義では、物流を対象とした効率と安全に関して数理的、応用的側面について幅広く学ぶことができます。

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授業にて

先生の研究に挑戦しよう

物流の中でも、輸送を中心とした空間的な問題を取り組んでいます。そのため、問題の対象を地図にプロットして、空間的広がりや隣接関係を視覚化することで、今まで見えなかった問題が明らかになることがあります。まずは、身近なスーパーやコンビニの位置を調べて、買い物に不便な地区、あるいは店舗の競合がある地区を確認してみて、店舗の位置をどのようにしたらより便利になるのか考えてみると面白いかと思います。

興味がわいたら~先生おすすめ本

小倉昌男 経営学

小倉昌男

小倉氏は、「クロネコヤマトの宅急便」の生みの親。「宅配便」は、今では当たり前の社会インフラとなっているが、実はサービスが始まってからまだ40年程度しか経っていない。宅配便の様々なサービスを確立する際に立ちはだかる様々な問題を、一つ一つ解決して行くプロセスは、読んでいて思わず手に汗を握ってしまう。よりよい社会を実現するためには、問題を的確に捉えて、高い理念と熱意を持って、前向きに問題解決に取り組むことが重要だと教えてくれる。 (日経BP社)


寺田寅彦随筆集

寺田寅彦

地球物理学者で随筆家として有名な筆者が、電車の混雑や街歩きをしながら気づく身近な問題に対して、数学的な視点からユーモアを交えながら論じている。中でも、「科学者と芸術家」など科学者としての独特な観点から書かれているものは圧巻である。 (岩波文庫)


最適配置の数理

岡部篤行、鈴木敦夫

郵便ポスト、バス停や公立学校などの施設、そしてアイスクリーム屋台など移動型店舗の設置場所は、どのようにして決められているのだろうか。様々な施設配置にまつわる問題について、身近な事例を元に平易に解説している。 (朝倉書店)


役に立つ一次式 整数計画法「気まぐれな王女」の50年

今野浩

オペレーションズリサーチの代表的な手法の一つである整数計画法とはどのようなものか、またその成り立ちから発展の軌跡を、分かりやすく解説している本。理系を目指す人はもちろん、「数学嫌い」にこそ読んで欲しい一冊。 (日本評論社)


地図の科学

山岡光治

教材としての地図、カーナビ、モバイルの地図ソフトなど、地図の種類は近年ますます多様化している。本書では、地図の作り方から地図の読み方、地図が発展してきた歴史的経緯や最新の地図技術まで、平易に解説してくれる。 (Si新書)


シムシティ

リアルタイム都市経営シミュレーションゲームのシリーズ。住宅地・商業地・工業地の設定や道路・線路の設置、公共施設や発電所などを設置シミュレーションする。ゲームを通じて、都市のインフラ整備に際して、様々な活動の集積で成り立っていることが体感できるだろう。 (エレクトロニック・アーツ)


劔岳 点の記

明治時代末期、日本全土の詳細な地図を作成するために、前人未到の山頂を目指す測量部隊がいた。標高2999メートル、氷点下40度の剣岳で何度も挫折を繰り返しながら生死をかけた登山を行う。地図を作ることの難しさがよく分かる映画。 (木村大作:監督 新田次郎:原作)


キャプテン・フィリップス

アフリカ東部、ソマリア沖にて海賊に襲撃され人質となった船長が生還するまでの物語。主演トム・ハンクスの演技と相まってストーリーに引き込まれつつも、実話に基づいた海上リスク管理のお手本となるような映画。 (トム・ハンクス:主演)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。