データ分析の力 因果関係に迫る思考法
伊藤公一朗(光文社新書)
経済学をはじめとする社会科学分野におけるデータ分析の活用法がわかりやすく書かれています。特に、経済学では因果推論に関心がある場合が多く、因果関係をデータから示すことの難しさと、その解決のための手法が解説されています。
私は経済学出身の統計学者です。経済学はその方法論によって専門分野が分かれているといった特徴があります。研究対象である人間の経済活動に関心があるのはもちろん前提ですが、そのなかで数学を武器とするのか、データ分析を駆使するのか、歴史など文献を丹念に調べるのか、多くの選択肢があります。そしてこれらの方法論が少しでも違うと、日々の研究生活が大きく変わります。どんな日々を送りたいのか、どんな人生を歩みたいのか、若いうちにできるだけ想像力を豊かにするために、人生は1度きりですが様々なジャンルの本を読んでいろんな人の人生を追体験してください。
測る意味のあるものを測れ! 新たなデータ分析手法の開発
モデル選択の考え方に驚き
私の専門は統計学の方法論の研究で、平たく言うと、データ分析の新しい手法を開発することです。
私が最初に統計学を面白いと思ったのは「統計モデル」に対する考え方でした。統計学には、手元に分析したいデータがあったとき、どの統計モデルを用いて分析するかをその手元のデータを用いて決定する「モデル選択」という手続きがあります。モデルとは「自然現象や社会現象を説明する理論があって、それを数式であらわすもの」だと思っていたので、どのモデルが適切かを手元のデータから選ぶなんて発想はなく、モデル選択の考え方に触れたときは驚きました。
紙とペンとパソコンと向き合う日々
日々の研究活動は、基本的には紙とペンとパソコンと向き合う地味なものです。数式展開や数値計算のアルゴリズムの工夫など、解決すべき1つ1つの問題を考えている時間が辛くも楽しく、また小さな成功体験を積み重ねていくことにも喜びを感じます。
最近、ある偉い先生に言われてハッとした言葉があります。「測る意味のあるものを測れ」と。それが実践できているか、まだ自信はありませんが、その言葉を意識して行った最近の研究を最後に1つ紹介します。
市区町村「内」と市区町村「間」
私は「小地域推定」という統計手法を研究していて、特に各市区町村の平均所得やジニ係数のような不平等度の推定を目指していました。しかし所得研究の専門家の先生とディスカッションを繰り返すうちに、単に不平等度を測ればいいわけではなく、市区町村「内」の不平等と市区町村「間」の不平等のどちらが深刻かを測りたいとニーズがあることを知り、そのための新しい分析手法をその先生と一緒に開発しました。
哲学、数理、応用、さまざまな魅力が詰まっているのが統計学だと感じます。
私は中学・高校と一貫して数学と社会が好きで、人間の経済活動を対象とする文系的学問の中でも、数理モデルを用いる経済学、そしてそのなかで統計学という道を見つけられたのはラッキーでした。
統計学は方法論の学問なので、その魅力を感じるのには随分と時間がかかり、先述した「統計モデルに対する考え方」に感銘を覚えたのは、修士の研究テーマで「情報量規準」を選んだ頃でした。最初は他の多くの学生と同様に、統計学のことは好きでも得意でもなく、理解できないものを理解したい、という純粋な向学心から興味へと繋がったのかなと思っています。
「小地域推定の新たな手法開発と官庁統計への応用」
◆主な業種
(1) ソフトウエア、情報システム開発
(2) コンサルタント・学術系研究所
(3) ネットサービス/アプリ・コンテンツ
◆主な職種
(1) 商品企画、マーケティング(調査)
(2) コンサルタント(ビジネス系等)
(3) システムエンジニア
◆学んだことはどう生きる?
近年、データサイエンティストという職種が登場し、統計学を専門として学んできた者がビジネスの場で活躍する機会が増えてきたように思われます。私のゼミ出身者でも、修士課程に進学し専門性を高めた学生の多くが、データサイエンティスト等の専門職として企業に就職しています。業界は市場調査・マーケティング、IT、ゲーム、コンサルティングなど、多岐にわたっています。
私は法政経学部という社会科学を総合的に学べる学部で教えています。高校生のみなさんが、大学での専門を入試の段階で選択するのは非常に難しいことだと思います。それは、それぞれの学問分野が何を対象としているかまでは想像がつくものの、どのような方法論をとっているかまではわかりづらいからです。法政経学部では、進学後に「経済」「経営・会計」「政治政策」「法学」の4コースの中から1つを選べるため、それぞれの学問に少しずつ触れてから進路を選択することが可能です。
研究と言うとなかなか難しいですが、高校生でも参加可能なデータ分析コンペティションなどはあるので、チャレンジしてみるのも面白いかもしれません。
最近では高校の数学のカリキュラムに統計学が含まれるようになりましたが、発展的に学習したい方は、習った数学的な概念を数値実験で確認してみることもオススメします。まずは、大数の法則や中心極限定理を、Rやpythonといったプログラミング言語を用いてシミュレーションしてみるといいでしょう。
ローマ人の物語
塩野七生(新潮文庫)
全17巻(文庫版だと43冊)にも及ぶ、古代ローマの歴史を描く超大作。オススメはユリウス・カエサルの巻です。カエサルがなぜ英雄であったのか、どのような才能と努力でその地位を気づいたのか、そしてカエサルのプレイボーイっぷり、カエサルの魅力をふんだんに伝えてくれています。
カエサルの数ある才能のうち文筆の才も後世高く評価されていますが、そのうち私が特に印象に残ったカエサルの金言があります。「多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」。SNSや動画配信サイト全盛のネット社会で、自分の信じたい情報しか取りにいかない現代人にも通ずる警鐘だと感じます。心理学的には確証バイアスと呼ばれ、人間の本質に2000年前から気づいていたのですから、カエサルはやはり偉い人です。
| Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? オーストリア:クラシック音楽が好きだから |
|
| Q2.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? ピアノの練習 |
|
| Q3.好きな言葉は? 「多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」 |

