ジェンダー

女子教育の歴史

宗教改革時代のドイツ、女子教育の道のりをたどる


櫻井美幸先生

宮城学院女子大学 学芸学部 人間文化学科(人文科学研究科 人間文化学専攻)

出会いの一冊

はじめての西洋ジェンダー史 家族史からグローバル・ヒストリーまで

弓削尚子(山川出版社)

ヨーロッパのジェンダー史の歩みについて、コンパクトかつ網羅的に知ることができます。「家族史」から始まって「女性史」が誕生し、そこからジェンダー史が発展していく過程についてわかりやすく書かれています。

とくに興味深いのは4章以降。可変的であるとされる「ジェンダー」に対し、身体的差異である「セックス」は普遍的・不変的であるとされてきました。本当にそうなのか? という問いから始まって、「男性史」、兵士=男性という構図を問う軍事史再考へと論が展開していきます。「ジェンダー史」は女性の歴史でもあるし、男性の歴史でもあるのです。

こんな研究で世界を変えよう!

宗教改革時代のドイツ、女子教育の道のりをたどる

歴史上の人物はなぜ男ばかり?

「世界中の歴史をみても、有名な政治家や学者や芸術家は男ばかりじゃないか。」中学生の頃、兄から言われた言葉です。その時は何も言い返せませんでした。確かにそうだ。何故だろう? 男の方が女より優れているから? それとも他に何か理由があるのだろうか。今思い返せば、これが私の現在の研究の原点でした。

それから歴史研究の道に進むのですが、ヨーロッパ史を選んだのは『ベルサイユのばら』、ドイツに興味を持ったのは『エロイカより愛をこめて』という少女漫画の影響です。

歴史学にもジェンダーの概念が適用

女性の生き方には興味を持っていたのですが、その時は「ジェンダー」という概念が一般的でなかったのと、女性史というとフェミニズム運動とイコールのような気がして(今では偏見だったとわかります)ちょっと腰が引けていました。それが「ジェンダー」(社会的・文化的性差)概念が歴史学にも適用されるようになって、これで私の中学時代の疑問を解き明かせるかもしれないと思ったのです。

女子教育の先駆者たちの声を聴く

私の関心は女子教育、とくに女子が高等教育を受けられるまでの過程にありました。ドイツで女子が大学に行けるようになったのは1908年で、日本の1913年とさして変わりません。このプロセスを明らかにするために、女子教育が国家の関心になり始めた宗教改革の時代(16・17世紀)に焦点を絞りました。

その中で出会ったのが、メアリー=ウォードという女性で、彼女の名前を冠した女学校は世界中にあるのですが、英国女子修道会(現在はイエズス会の分派)を作った、女子教育の先駆者です。彼女や彼女の仲間たち、修道会学校で学んだ女性たちの声を聴くことが、今の私の研究の基本にあります。

現在史料を読んでいるメアリー=ウォードに関する本。古い時代のものも多いです。
現在史料を読んでいるメアリー=ウォードに関する本。古い時代のものも多いです。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

歴史学の研究とは、歴史史料の解読にあります。歴史史料とは、法律や裁判の判決のような公的機関が作成したものから、個人の手紙や日記まで、幅広いものを含みます。歴史史料の解読とは、そうした過去に人間が書いたものを扱うこと、ひいては過去の人間との「対話」にあると思います。

結局過去に生きた人間と対話がしたいから、私は歴史をやっているのでしょう。「わかる!」と思うこともあれば理解できないこともあり、その場合は何故理解できないのかを考えます。そうそう、中学時代兄に言い返せなった質問に対しては、今は100倍の理由をつけて言い返せますよ!

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「近世ヨーロッパにおける女性の宗教運動-宗教上の平等の可能性と限界をめぐってー」

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学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) ホテル・宿泊・旅行・観光

(2) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等

(3) 外食・娯楽サービス等

◆主な職種

(1) 一般・営業事務

(2) 中学校・高校教員など

(3) サービス・販売系業務(店長・マネージャーも含む)

◆学んだことはどう生きる?

海外フィールド実習は、1年に1か国実施されるもので自由参加なのですが、4年間すべての実習(インド、フランス、フィリピン、ドイツ)に参加した学生がいました。

彼女は私のゼミでドイツのローテンブルクという都市の歴史的町並みを軸にした観光政策について卒業論文を書いたのですが、まさに実際にローテンブルクに行って調べたことが論文に活かされていました。彼女は大きなホテルチェーンに就職しました。何回も海外に行って学んだことが良かったのだと思います。

先生の学部・学科は?

私の所属学科は「人間文化学科」といいます。よく人間文化学科って何を学ぶの? と高校生の方々に聞かれますが、簡単にいえば「世界・日本を縦軸と横軸で学ぶ」でしょうか。具体的に書くと歴史文化コースと国際文化コースがありますが、両方の分野をバランスよく学ぶことができます。

「世界遺産概説」という授業があり、学内で世界遺産検定の試験もしています。そしてフィールド実習という、ドイツやフランスやアジア、日本各地の実地で学ぶ授業がカリキュラム化されているのも特徴です。

学生さんたちと実習で行ったドイツ。エルフルトの市庁舎です。
学生さんたちと実習で行ったドイツ。エルフルトの市庁舎です。
先生の研究に挑戦しよう!

・歴史人口学の成果からみえる女性のライフサイクルについて

あなたが例えば16世紀のドイツ都市に商人の娘として生まれたなら、どのような人生を送ったと思いますか。
あなたが産まれた1年後に同じ年に生まれた赤ん坊は何分の1になっているでしょうか。
あなたは平均して何年くらい学校に行って何を学ぶでしょうか。
何歳で結婚して、何歳で最初の子どもを産むでしょう。
そして子どもは何人くらい生まれて育つのでしょうか。
最後にあなたは何歳くらいでこの世を去るか。
歴史人口学が示す平均値を調べることで、ライフサイクルを組み立ててみましょう。

中高生におすすめ

ハーメルンの笛吹き男 伝説とその世界

阿部謹也(ちくま文庫)

歴史の謎解きも面白かったですが、ドイツの文書館で大量の史料を読み込んでいくという研究者の仕事の姿勢にワクワクしました。高校2年生の時に読んだ本です。


戦争は女の顔をしていない

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ、訳:三浦みどり(岩波現代文庫)

コミカライズもありますが、是非文庫で読んでみてください。前線で本当に戦った第二次世界大戦時のソ連の女性たちに取材した記録です。作者はベラルーシとウクライナにルーツを持ち、ジャーナリストとして初めて2015年にノーベル文学賞を受賞しています。


大奥

よしながふみ(ヤングアニマルコミックス)

男女逆転大奥。ドラマも素晴らしかったですが、多くがカットされていましたのでこれは原作漫画で読んで欲しいです。フィクションでありながら、当時の女性の生き方について考えさせられます。とくにラストが秀逸です。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

マーケティング

Q2.大学時代の部活・サークルは?

大学時代は入ってませんでしたが、高校時代は漫画研究部です。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

バブルだったので、イベントのサクラというのがありましたね…。基本は家庭教師と塾講師です。

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

養蜂。大学内で学生さんたちと蜂の世話をし、採蜜し、蜂蜜やカヌレを商品化して売っています。すごく売れて楽しいです!

Q5.好きな言葉は?

雑草は死なない


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