新領域法学

高校生にも法教育を!教員を目指す学生たちも「法教育」の担い手


上田理恵子 先生

熊本大学 教育学部 社会科教育講座/教育学研究科 教科教育実践専攻/(現職:富山大学 学術研究部 教養教育学系)

どんなことを研究していますか?

2009年に裁判員制度が導入され、一般市民も社会の担い手として法に関わっていくことになりました。2016年からは選挙権年齢が18歳からに引き下げられました。法についても、専門教育だけでなく、中学校や高校の学校教育の中で伝えていくことが求められています。そのために、どのような「法の学び」があるのか、その内容と方法を明らかにする必要があります。

私が長く所属してきたのは教育学部ですので、将来、学校教員となる学生を対象に、学校生活の指導者としての、数多くの「きまり」や「約束」に対する向き合い方、教え方について、一つでも多くの提案ができる方法を模索してきました。

東欧の法制度の変遷から、現代のヨーロッパの課題を見い出す

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一方、個人の研究テーマとして、「法制史」の研究を行っています。「法制史」は、様々な時代や地域の「法」は、人々にどのように作られ、承認され、運用されてきたのか、時間や空間を超えて研究する学問です。

具体的には、第一次世界大戦後に解体したオーストリア=ハンガリー二重君主国の司法制度を例にとり、東ヨーロッパのその時代固有の問題と法制度の特徴との関係を明らかにしようと取り組んでいます。EU統合や難民の流入問題を見てもわかるように、ヨーロッパ全体で足並みを揃えようというとき、制度が抱える矛盾や課題をいち早く発見することができるのは、激動の歴史を抱える東欧ではないか。この地域で法や司法の変遷を明らかにすることで、古くて新しい問題に気づくことができると考えています。

最近の研究では、これらの地域で、弁護士や公証人の傍らで、法実務の一部を担ってきた人たちの歴史に注目しています。「もぐり」と非難されることもありますが、地元住民のニーズに応えてきた点も否定できないからです。日本法制史研究者を中心に、さまざまな時代や地域の研究者が集まって研究成果も出したところです。(三阪佳弘編『「前段の司法」とその担い手をめぐる比較法史研究』大阪大学出版会、2019年)

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な職種は→中学校社会科教員、小学校教員

先生から、ひとこと

長年にわたり、とても楽しい学び合いができたことを、熊本大学教育学部の学生の皆さんに感謝しています。この春からは、富山大学の教養教育を学修する皆さんと、これまでの学びを活かせるよう取り組んでいます。困難な時期に新たな挑戦ですが、ここでも若い世代の皆さんとの出会いと学び合いをとても楽しみにしています。

先生の学部・学科はどんなとこ

所属してきたのは学校教員養成課程です。小学校、中学校社会科教員、高校公民科の教員免許を取得する学生の皆さんは、「法教育」の担い手です。この人たちのために、法に関する素材や背景知識を提供する一方で、地域の法実務の現場との交流を深めてきました。

例えば、学生の企画による移動教室があります。裁判所や刑務所など、地域の司法関連施設や団体を訪問し、報告書を作成するという取り組みを重ねてきました。弁護士会法教育委員会が小・中学生の皆さんのために毎年開催される法教育セミナーにも学生たちが関わってきました。

大学院レベルでは、地域の歴史を教材に活かし、実験授業を通してその成果と課題を検討する取り組みも、少しずつ始めています。海外の大学との連携も、大学ぐるみで進んできており、意欲のある皆さんを歓迎します。

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ゼミの様子

先生の研究に挑戦しよう

自分たちの学校生活、家庭、地域のルールづくり、またはすでにあるルールを再検討してみましょう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

ロースクール生と学ぶ 法ってどんなもの?

大村敦志:監

髪型を校則で決めることはできるのか?文化祭のライブ演奏は騒音なの?など、中高生の疑問に、若いロースクール生たちが答え、法律を理解する手助けをする。憲法をはじめ、民法、刑法、少年法等、幅広い法分野が対象。一方的に「教える」のではなく、高校生と学生生たちが一緒に「考える」という手法をとり、読者が自分から法律に関わっていってほしいというメッセージが伝わってくる。 (岩波ジュニア新書)


「大岡裁き」の法意識 西洋法と日本人

青木人志

明治期における西洋法制の継受の過程で、日本が受け入れたもの、捨てたもの、変わらなかったものな何か。「法文化」について語られてきたことが、整理して描かれている。法廷見取り図の変遷から裁判の変化を問い直すなど、司法制度を角度から捉える視点がユニークだ。法科大学院の創設や裁判員制度の導入など、司法制度の大きな変革期に執筆された本だが、法と私たちがどう向き合うか、「古くて新しい」問題を投げかけている。 (光文社新書)


朗読者

ベルンハルト・シュリンク

一見するとドイツの恋愛小説とも言える作品だが、そこに流れる主題に着目してほしい。第二次大戦下のナチス・ドイツに加担した「普通の人々」の罪をどのように捉え、裁くのか。「過去に対する責任」を問う。 (松永美穂:訳/新潮文庫)


ハプスブルクの実験 多文化共存を目指して

大津留厚

東欧に君臨した多民族国家ハプスブルク帝国(オーストリア・ハンガリー帝国)は、憲法で民族の平等を謳い、様々な工夫を凝らしながら多民族の均衡を保って存在したが、理念と現実の乖離が第一次世界大戦で浮き彫りとなる。多民族統治の難しさを伝えるこの本は、立法史からみても興味あるテーマだ。 (中央公論新社)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。