日本史

19世紀後半の国際関係史~ロシアが日本にやってきた理由とは


麓慎一 先生

佛教大学 歴史学部 歴史学科

どんなことを研究していますか?

アメリカ合衆国の地図を思い浮かべてみてください。カナダを挟んで二つに分かれています。不思議だと思ったことはありませんか。実はここに、私が研究している日本とロシアの問題が深く関わっているのです。

アメリカ合衆国のアラスカは、1867年までは「ロシア領アメリカ」と呼ばれ、ロシアの領土でした。ロシアはこの「ロシア領アメリカ」を経営するために日本と条約を結んで、寄港地を獲得したいと考えていました。これが、19世紀後半にロシアが日本にやってきた理由です。一般的には、「ロシアの南下政策」と言われていますが、実はそうではないのです。このように日本を取り巻く国際関係とその変容が日本にどのような影響を与えたのかを研究しています。

福沢諭吉が開港した五港のなかで期待していたのはどこか?

image

歴史の研究は多様なものの見方を獲得することができます。みなさんは日本が開国したとき、最も重要な港はどこだった、と考えていますか。きっと横浜でしょう。教科書では貿易の盛んな横浜が取上げられ、その貿易額を示すグラフなども掲載されていることが多いでしょう。

ここで紹介したいのは、福沢諭吉の考えです。彼は、どの開港地に期待していたと思いますか。彼は「新潟は開港しても貿易が振るわないのでとても良い」と新潟に期待を寄せていました。開港地なのに貿易が活発でないから良い、というのは意味がわかりませんね。

福沢は次のように考えていました。横浜は貿易が活発だけれど、その利益は横浜に進出してきた外国商人が全て得ている。日本人が生産したものを外国に持っていき、彼らが莫大な利益を得ているということは、日本人がとても損しているということなのだ。その点、新潟はまだ貿易が活発でないから外国商人が進出していないので、外国との貿易で日本人の商人が活躍できるチャンスがある。これが彼の考えでした。

福沢諭吉は江戸時代には幕府の役人で海外にも行っていましたし、海外のことをとても勉強していました。彼は貿易の権限の喪失や、その利益を外国に取られることがどれほど恐ろしいことかを知っていたのです。アヘン戦争後の清国の状況を福沢諭吉や日本のリーダたちはとても憂いていました。このような考えは今の私たちにはなかなか発想できませんね。

image

右が資料調査先のロシア海軍文書館。左はエルミタージュ美術館

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→企業、学校、公務員、進学
  • ●主な職種は→教員、事務職など
分野はどう活かされる?

佛教大学はいろいろな資格が取得できるようにカリキュラムが構成されています。歴史学部では中学校(社会)・高校(地歴・公民)の教員免許が取得できるだけなく、佛教大学通信教育課程を併用して必要な単位を修得すると、小学校の教員免許も取得できます。

先生から、ひとこと

かつて「鎖国」と言われていた江戸時代の日本が、現在ではそう捉えられなくなったように、当たり前だと思われている通説が必ずしも全て正しいとは限りません。

最近では、日本の近世・近代史に関する歴史史料はデータベースで公開されるものが増え、誰でも身近に歴史史料に触れることができるようになりました。そのため、高校生のみなさんも、将来、通説を覆すような研究ができるチャンスがあります。歴史学はどんどん進化しています。

先生の学部・学科はどんなとこ

佛教大学歴史学部は、歴史学科と歴史文化学科に分かれています。どちらも「歴史」とありますが、前者は文献を後者はフイールドワークやインタビューなどを資料として使います。

私は歴史学科の教員ですが、歴史学科には日本史・西洋史・東洋史の先生がいてどの国の、どの時代でも学ぶことができます。

福沢諭吉を例にあげましたが、歴史を学ぶことは多様なものの見方を修得できる最も有効な方法です。佛教大学歴史学部の先生たちは、社会に出たときに、歴史の学びで得た多様なものの見方や柔軟な発想を駆使して社会で活躍してもらえると考えています。

先生の研究に挑戦しよう

【テーマ】
(1)江戸時代に北海道のコンブは「俵物」といわれて清国に輸出されていました(高校の教科書にも書かれていますね)。明治時代には「俵物」はどうなったのでしょう?(ヒントは明治以降、清国に輸出しても日本のコンブはあまり売れませでした。その理由を考えてください)

(2)福沢諭吉は五港のなかで新潟に期待を寄せていました。イギリス公使のパークスはどの開港地を重要と考えていたでしょうか?それはなぜですか?(ヒントはウラジオストックです)

(3)樺太千島交換条約のあと日本の領土になった千島列島にはたくさんのイギリス人やアメリカ人がやってきました。なぜ彼らは千島列島に来たのでしょうか?(ヒントはアメリカがカナダ(英領カナダ)を挟んでいることに関係があります)

興味がわいたら~先生おすすめ本

開国と条約締結

麓慎一

ペリーが日本に開国を迫った際、幕府がどのように対応し、それを切り抜けたのかを、これまでの様々な研究者の成果を踏まえて記述している。これまで日本の歴史を研究する時に使われてこなかったロシアの史料が使われており、日本の古文書、英語、ロシア語というマルチ・アーカイブな研究成果を見ることができる。 (吉川弘文館)


日本論の視座 列島の社会と国家

網野善彦

日本の歴史の見方を大胆に変えた研究者・網野善彦先生の本。日本という国の始まりや、単一民族としての意識はどのように形成されたのか。さらには、中世の職人や商人、遊女や乞食など、人々の生活を通して、日本の実像の多様性を描き出す。大変興味深い一冊。 (小学館)


日本近世の歴史5 開国前夜の世界

横山伊徳

黒船来航よりはるか以前、18世紀末、ロシアやイギリスなど多くの外国船が日本にやってきて貿易を迫っていた。江戸幕府はどう対応したのか。18世紀末から19世紀後半にかけての国際関係史を最新の成果を踏まえてわかりやすく解説。日本史の研究の最先端を知ることができる。 (吉川弘文館)


幕末日本と対外戦争の危機 下関戦争の舞台裏

保谷徹

長州藩vs.欧米列強の下関戦争は、日英全面戦争になりえる懸念があった。そうした日本の幕末の危機を、イギリスの外交文書を駆使して解説する。 (吉川弘文館)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

みらいぶっくへ ようこそ ふとした本との出会いやあなたの関心から学問・大学をみつけるサイトです。
TOPページへ