神経生理学・神経科学一般

脳とグリア細胞

脳の病気にも関わるグリア細胞の働きを調べる


鶴田文憲先生

筑波大学 生命環境学群 生物学類

出会いの一冊

もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」

R・ダグラス・フィールズ 、監訳:小西史朗、訳:小松佳代子(講談社ブルーバックス)

グリア研究の第一人者、ダグラス・フィールズ先生が書かれた『The Other Brain』の訳書。内容が少し専門的で、中高生の皆さんには難しいかもしれませんが、じっくり読み込めば理解できると思います。世界のグリア研究を牽引する先生が書かれた本ですので、興味がある学生さんは是非。

こんな研究で世界を変えよう!

脳の病気にも関わるグリア細胞の働きを調べる

神経細胞だけでは説明がつかない脳機能

ヒトの脳は、1000億を超える神経細胞が複雑なネットワークを形成し、運動や情動、記憶や学習など、様々な生命現象を調節しています。

これまでの神経科学研究は、ゴルジ博士とカハール博士の大論争を端緒に、電気信号を伝えるメカニズムや神経伝達物質の同定など、数多くの発見がなされてきました。その一方で、複雑な脳機能は、神経細胞の理解だけでは説明がつかないことも明らかとなってきました。

グリア細胞は神経細胞を支配する「主役」

ヒトの脳は神経細胞以外にも、様々な細胞が存在しています。中でも、グリア細胞は、神経細胞の10倍近く存在すると見積もられています。

最近まで、これらグリア細胞は、神経細胞の機能を補助する支持細胞、すなわち「脇役」として考えられてきました。しかし今世紀に入ってから、グリア細胞は決して脇役ではなく、むしろ神経細胞を裏から支配する「主役」になりうるのではないか、という学説も活発に議論されるようになってきました。

脳の発生・老化・恒常性維持を調節

私たちの研究室では、これらグリア細胞がどのようにして脳の発生・老化・恒常性維持を調節しているか、またグリア細胞の異常がなぜ脳神経疾患や脳機能障害につながるか、遺伝子改変マウスを用いた分子生物学的手法を用いて検証しています。

特に、グリア細胞が、神経細胞だけでなく、脳の血管や髄膜の機能制御にも関わるのではないかと考え、詳細な解析を進めています。現在、研究室の学生さんたちと一緒に、一般の人からも興味を持ってもらえるような発見を目指し、日々の研究に取り組んでいます。

日常的に行う実験操作。ピペットマンを使ってμl単位の溶液を分取しています。
日常的に行う実験操作。ピペットマンを使ってμl単位の溶液を分取しています。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

博士課程の時、将来どのような研究を展開したいか考え、未解明の領域が多く残されていた神経科学の分野に興味を持ちました。学位取得後は、神経細胞カルシウムチャネルの研究を行っている研究室(スタンフォード大学)に留学しました。神経科学のなかでもグリアに本腰を入れ始めたのは、それほど昔ではなく、国際共同研究でグリアの研究を行っている研究室(デューク大学)に客員研究員として留学させてもらったことが転機です。

客員研究員として滞在させてもらったデューク大学の礼拝堂前
客員研究員として滞在させてもらったデューク大学の礼拝堂前
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「非定型カドヘリンFat3を介したミクログリアによるシナプス制御」

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先生の分野を学ぶには
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学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 薬剤・医薬品

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

◆学んだことはどう生きる?

博士号、修士号を取得して、製薬企業の研究開発職に就職する人が多いです。情報通信、メーカーに就職する学生もいます。私の研究室では、神経科学、分子生物学を中心とした研究に従事しており、製薬の研究開発職は、大学院で学んだ知識や技術がそのまま活かされます。また国内外の大学・研究所での基礎研究者を目指している学生もいます。

先生の学部・学科は?

筑波大学の生物学類は、動植物、昆虫、生態、微細藻類など、生物学全般を網羅した国内最大級の学科です。入学後に専門コースに振り分けられることが特徴で、医学部の授業が受けられる人間生物学コース、英語授業のみで卒業できるGloBEコースなど、他大学にないユニークなコースも準備されています。

生物学類の学生さんは、いい意味で「変な」学生さんが多いことでも有名です。将来、皆さんも生物学類に入学して、「変な」学生さんとなって、生物学を楽しんでもらえたら嬉しく思います。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

精神と物質 分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか

立花隆、利根川進(文春文庫)

ノーベル医学生理学賞を受賞した利根川先生とジャーナリスト立花隆氏の対談。大学院の時に読み、感銘を受けました。抗体産生の多様性メカニズム発見までの流れが、とてもわかりやすく紹介されています。当時、黎明期でもあった分子生物学の時代的背景を勉強する上でもお勧めです。


進化しすぎた脳 中高生と語る[大脳生理学]の最前線

池谷裕二(講談社ブルーバックス)

専門的なことがとてもわかりやすい言葉で書いてあるので、神経科学に興味がある中高生の皆さんにはお勧めの一冊です。私の研究室の学生さんにも勧めています。池谷先生の前作「記憶力を強くする」(講談社ブルーバックス)も面白いです。


はたらく細胞

清水茜(シリウスKC)

業界では定番のおすすめ漫画/アニメ。免疫細胞を擬人化して、細胞の機能をわかりやすく紹介しています。私も、授業でマクロファージを紹介する時、「はたらく細胞」に出てくる単球やマクロファージを用いて説明しています。


サイエンティスト・ライブラリー~ 日本の生命研究を築いた研究者の一覧 ~

JT生命誌研究館

JT生命誌研究館のHPで公開されている研究者の先生方のエッセイです。本HPで紹介されている方は、全員、歴史に残る発見をされた先生方で、神経科学を専門にしている先生方も数多く登場しています。一読して、研究の魅力に触れてもらえれば嬉しいです。

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一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

医学・情報科学

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

アメリカのパロアルト(天気がいいので)

Q3.感動した/印象に残っている映画は?

レナードの朝(神経科学に関連した印象に残っている映画です。原作者のオリバーサックスも神経科学者/医者です)

Q4.大学時代の部活・サークルは?

剣道部(剣道三段、居合道初段です)


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