「おもてなし」という言葉に置き換えられることが多い「ホスピタリティ」ですが、実際にはもっと多様な意味を内包しています。友人の誕生日にサプライズでお祝いすることも、道端で困っている人に親切にするのも、いずれもホスピタリティには含まれるように思いますが、「おもてなし」にもなるでしょうか。私は、こういったホスピタリティ概念を、ホテルや旅館などといったビジネスを通じて研究しています。
日本のホテルや旅館を見ると、外資系のホテルと比べて、必ずしも日本のホスピタリティは世界最高といえないと感じられます。なぜでしょう。それは、「おもてなし」が我が国独特の情緒性や価値観に基づいた、ローカルな概念なのに対し、欧米のホスピタリティは、長年、宿泊産業の顧客対応上の問題の解決を目指して理論発展してきたという違いがあると考えられます。
海外のホテルでは、ゆったりとした時間を過ごす様々な工夫
日本のホテルや旅館と、海外のホテルを比較し、予測しにくい多様な顧客の欲求に対して、サービス提供側がどう対応するか分析しています。リゾート地、観光地にある宿泊施設では、日本では、施設や設備のハード面での不足を「おもてなし」というソフト面で補っていること、一方海外の場合は、食事をはじめゆったりとした時間を過ごす様々な工夫がなされていること、顧客の望むことに対する自由度が高いことなどが明らかになりました。また、都市部のホテルは、顧客のニーズには施設全体で応えるのみならず、コンシェルジュというスタッフが対応するのがポイントであることが垣間見えています。
宿泊産業にとって、ホスピタリティをマネジメントすることは重要な課題です。ホスピタリティ・マネジメントとは、顧客とサービス提供者の関係性のマネジメントと言えるでしょう。そして、それは、人と人、国と国など、様々な関係性に応用が可能であると思います。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→ホテル、旅館、ブライダル、コンサルティング、人材派遣
- ●主な職種は→現状は現場が多いが、皆、将来はマネジメント層に就くことを目指している
- ●業務の特徴は→人と人を中心とした関係性のマネジメントが必要とされる
分野はどう活かされる?
人と人との多様な関係性をマネジメントする方向で、業務をしている卒業生が多いです。
ホスピタリティは、「ホスピタリティ産業」ではビジネスとして扱われますが、一方で、「生き方」でもあると考えます。他の人との関係に配慮して生きていくという生き方ですね。こうした深いホスピタリティの真髄に、ぜひ東洋大学で触れていただきたいと思います。
東洋大学国際観光学科は、単なる「おもてなし」にとどまらない幅広いホスピタリティ・マネジメントについて学ぶことができます。ここまで幅広くホスピタリティについて研究している大学は、国内外を見渡してもそれほど多くありません。ホテルやブライダルをめざしてホスピタリティを学びたいという人はもちろん、自身の人間力を高めたいという思いを持っている人であれば、誰でも満足して卒業していってもらえると思います。
興味がわいたら~先生おすすめ本
王様のレストラン
松本幸四郎、山口智子主演の連続テレビドラマ。やる気のない従業員により傾きかけたレストランが、一人の「伝説のギャルソン」の登場とともに再生していくストーリー。バーと同様に、レストランでもホスピタリティの重要さを感じられるだろう。
(フジテレビ 松本幸四郎、山口智子:主演)
バーテンダー
長友健篩:著
ホスピタリティが生じる前提として、「不確実性」というキーワードがある。例えばバーには、メニューがないというところも多いため、何をオーダーするか、いくら支払うことになるのかが事前には分からず、バーテンダーと相談しながら決めていくことになるのに加え、お客様によって対応を変える必要性があることなども含め、ホスピタリティを知るために必要な要素がすべて含まれている。本書では、さまざまな関係性が交錯する場で、どのように関係性のマネジメントが行われているかが描かれている。本書を通じて、手軽にそのホスピタリティと不確実性の世界を覗くことができるだろう。 (城アラキ:原作/集英社コミックス)