生態・環境

メスだけの集団に置きかわってしまった!生きものの生殖の謎を探る!!


東城幸治 先生

信州大学 理学部 理学科 生物学コース/総合理工学研究科 理学専攻

どんなことを研究していますか?

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動物であれ植物であれ、多くの生きものにはオスとメスという「性」が存在します。性染色体の組み合わせで性が決まる生きものでは、オスとメスの構成比は、ほぼ1:1となります。ところが最近、両性生殖を基本とする昆虫の中から、一部の集団における突然変異により、オスとの交配なしにメスだけの子孫を残すような、メスだけで構成される系統の進化が明らかとなりました。これは、オスとメスによる両性生殖を喪失し、メスだけで生殖する単為生殖に移行したことを意味します。

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私たちはオオシロカゲロウという昆虫の中に、メスだけの集団があり、ユニークな繁殖生態が進化してきたことを発見しました。遺伝子解析により系統進化の研究を行った結果、単為生殖系統は比較的最近になって西日本で起源し、この系統が急速に全国へ広まったことがわかりました。とても珍しいことですが、現在は、両性生殖系統と単為生殖系統がモザイク状に分布しています。この単為生殖するメスと両性生殖するオスとの間では交配が起こりません。そして徐々に、両性生殖集団がメスだけの集団へと置き換わるような現象が急激に進行しています。

生物にとっての「性」の存在意義を深めたい

この研究では、汗や泥にまみれながらの野外調査もありますし、野外採取したサンプルを用いて、実験室内での発生遺伝解析や分子系統解析などの精密な実験も行っています。広範囲な生態調査を行う「マクロ生物学」から、遺伝子解析などの「ミクロ生物学」までの幅広い研究です。

これら一連の研究を通して、生物にとっての「性」の存在意義やその進化的背景についての理解を深めることが目的の一つです。

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長野県と岐阜県の県境にある乗鞍岳での学生実習

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な職種は→大学や国や自治体等の研究職、中学・高校の理科教諭、公務員、飲食品関係のメーカーの研究職や総合職、環境コンサルタント会社員
分野はどう活かされる?

大学院へ進学する卒業生が多く、博士号を取得し、大学教員等の研究職に就いている卒業生や民間企業(環境コンサル会社)へ就職した卒業生もいます。学部や修士卒では、中学・高校の理科教諭や公務員(自然保護や生活環境関係の部署への配属)や民間企業(多くは、飲食品関係メーカー等)で活躍している卒業生もいます。

研究職以外では、研究室での研究活動を直接的に活かすことは多くありませんが、それでも、研究活動で培った論理的な思考力や、何事にも国際感覚で思考しようとする姿勢などは、様々な場面で役に立っているように感じています。

先生から、ひとこと

日本列島は生物多様性の世界的な「ホットスポット」です。なかでも信州は、冷涼な環境に適応した生物と、温暖な環境に適応した生物が出会う地域ですので、種多様性が高い地域であると言えます。また、日本列島を構成する陸地のほとんどはユーラシア大陸から離裂したものですが、東北日本と南西日本はそれぞれ別々に大陸から離裂したとされます。これらの境界に位置づけられる信州は、両方の要素を併せ持っています。つまり、信州は「生物進化の実験室」的ワンダーランドなのです。このように世界的にも珍しい立地の信州で、多様な生きものを対象に、とことん生物進化の研究に取り組んでみませんか。

先生の学部・学科はどんなとこ

信州大学理学部理学科生物学コースには、日本で唯一の「進化生物学」講座があり、様々な動植物に関する系統進化・進化生態に関するカリキュラムが充実しています。信州の自然豊かな立地を活かし、豊富なフィールドワークを含む教育や研究が盛んに展開されています。

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長野県・上高地での野外調査

先生の研究に挑戦しよう

昆虫の性はどのようにして決まるのか? どのような分類群や地域で単為生殖系統(メスだけで生殖する系統)が進化するのか? はたまた、日本の生きものたちはどのようにして渡来したのか? その系統は、日本の地史の影響をどのように受けてきたのか?身近な生きものたちにも、たくさんの「ふしぎ」が秘められています。それらの謎を、とことん追究し、紐解いてみませんか。 

興味がわいたら~先生おすすめ本

理科好きな子に育つ ふしぎのお話365 見てみよう、やってみよう、さわってみよう 体験型読み聞かせブック

自然史学会連合:監修

この本は、身近な自然にまつわる面白い話題365日分の、季節ごとにみられる様々な自然現象のトピックスで構成されています。生物の多様性を幅広く知ることができ、自然への関心を高める第一歩として好適な書と言えます。自分自身で実験してみたり、確かめたりすることのできるポイントも記載されているため、これをきっかけに自身の関心を発展させることも可能です。例えば、ウニ類の裸殻の特徴に関する内容では、形態的特徴をとらえることで、種間およびグループ間の体制を考えることができ、そこから進化多様性を考えることが可能となります。自由研究や課題学習でのヒントを得るにも最適の書籍です。 (誠文堂新光社)


遺伝子から解き明かす昆虫の不思議な世界

大場裕一、大澤省三、昆虫DNA研究会:編

昆虫DNA研究会の主要メンバーが執筆した本で、私自身も3つの章を執筆しています。身近な昆虫の進化、生理・生態に関する疑問に対して、「遺伝子」の観点から紐解きをしています。専門的な内容も含みますが、それぞれの著者がわかりやすく解説されているほか、用語の解説欄も充実しています。基本的には、身近で素朴な疑問を解き明かす構成なので、中学生、高校生、大学生・院生、専門家まで、様々な立場の読者にも満足してもらえると思われます。今後、遺伝子解析が進むことで解き明かされるのではないかといった、これからの研究のヒントになるような内容も含んでいます。 (悠書館)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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