生態・環境

生物種間の関わり合いと進化


三宅崇 先生

岐阜大学 教育学部 学校教育教員養成課程 理科教育講座/教育学研究科 教職実践開発専攻 教科指導能力開発コース サイエンス系 理科教育実践

どんなことを研究していますか?

私はもともと植物の繁殖形質の進化を研究してきました。簡単に言うと、花の形や匂いの進化や、種子形成に関わる遺伝子の進化です。しかし教育学部は理学部や農学部に比べて生物学の教員は少ないということもあり、学生のいろんな興味に対応できるように研究の対象を広げました。

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現在は身近な動植物を材料に、生き物間の関わり合いに着目した研究を行っています。動物ではダンゴムシやテントウムシ、オトシブミ、植物ではクサギ、カワラナデシコ、シランなど、学生の興味に合わせて様々な材料を対象としています。

カワラナデシコとゾウムシ、蚊と魚

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カワラナデシコには、雌花だけを持つ雌株が両性花をつける両性株と共存しています。この共存に、種子を食害するゾウムシが絡んでいることを見出しました。雌花をつける雌株は、ゾウムシが一斉に種子産卵のために訪れるタイミングをうまく回避し、花冠を小さくしてゾウムシに見つけられにくくしていました。

また、マングローブ林に住む蚊が様々な魚から吸血することを解明しました。雌の蚊のお腹の中にある消化前の血液から血の中のDNAを増幅し、塩基配列から血の主を特定しました。これらは、野外での調査採集に加え、大学での飼育、研究室実験などを駆使して明らかにしました。

「生態・環境」分野は、野外における生物の生き様について明らかにする学問分野です。実験室や標本のみからは明らかにすることが難しい、生物間の相互作用や、地域間や集団間の違いをもとに、生物の生き様に与える生態・環境要因を明らかします。

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マングローブ林で、魚の血を吸う蚊を採集しているところ。捕虫網で捕まえた蚊を、吸虫管という装置で吸い取って集めている。

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→教育
  • ●主な職種は→学校教員
分野はどう活かされる?

生態学は、これを知りたければこう実験すればよい、ということが決まっているわけではなく、生物ごとにデータの採り方や採れるデータが異なります。それを踏まえた上で、検証可能な仮説を立てて実験観察を試行錯誤するため、仮説とそこから生じる予測について常に意識することができます。このような体験は、科学的な見方や考え方を子どもたちに教える上でも、非常に役立つと思います。また卒業生の話を聞くと、身近な生き物を扱った自分の研究を話すことは、子どもたちの科学への関心を高める上でも効果絶大です。

先生から、ひとこと

研究内容だけみると、それが教員養成とどのように関係しているのかと思われるかもしれません。しかし、自分で研究の問題を設定し遂行することで、科学的な見方や考え方を実際に経験して修得することは、将来教員になる学生にこそ必要なことだと思います。

先生の学部・学科はどんなとこ

岐阜大学教育学部は、岐阜県を中心として活躍する、優れた専門的知見と指導能力をもつ教員、ならびに社会の多様な学習要求に応える教育専門職及び教育関係者の養成を目的とする学部です。小学校の教員になる場合でも、大半は教科に関わる講座に属し、中学校教員の免許を取得するとともに、教科の専門的な知見や考え方を修得することができます。

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野外でギンリョウソウの解説をしているところ。学生は初めて知ったかのように驚いているが、過去に授業で触れたはずなのにと心のなかで思っている。

先生の研究に挑戦しよう

DNAを用いて研究を行うこともありますが、行動(例えば匂いの有無で行動が変わるかなど)や繁殖成功(条件を変化させることで、種子数がどう変化したか)など、特別な装置がなくとも研究できることはたくさんあります。そういうテーマについて、仮説を立てて検証していく姿勢が高校生レベルでは重要だと思います。

興味がわいたら~先生おすすめ本

したたかな植物たち あの手この手のマル秘大作戦

多田多恵子

植物は動けないことで、どのような性質を進化させたか。学術的なタッチでなく、身近な実例を伴って読みやすく書かれている。例えば、(1)食べられないための進化(防御形質)、(2)交配をするための進化(送粉系・繁殖システム)、(3)子孫を適地に分散させるための進化(種子散布)などの進化の多様性を紹介。それが環境や他の生物との関わりにより進化していることが理解できる。 (ちくま文庫)


ときめき昆虫学

メレ山メレ子

普通のOLが、旅先で出会った虫の魅力に目覚めた!まさに現代の“虫愛づる姫君”。研究者ではない視点から研究者を面白おかしく紹介しており、研究者への親近感を伝えている。Web文芸誌・マトグロッソの連載「ときめき昆虫学」を単行本化したものだ。同ウエブサイトの『ときめき昆虫学』特設ページに、水生昆虫専門家の指導のもとゲンゴロウを採集中のどろんこまみれの取材風景などが紹介されていて、体当たりの奮闘ぶりが伝わってくる。 (イースト・プレス)


共生細菌の世界 したたかで巧みな宿主操作

成田聡子

東海大学出版会は、若手研究者を著者とする「フィールドの生物学」シリーズを出している。この本は第五弾で、研究対象としてチョウとその細胞内の共生菌に焦点を当てている。内容も面白いが、著者が研究者になってゆく過程を如実に伝えており、大学、大学院に進んで研究を行うとはどういうことかよく伝わる。 (東海大学出版部)


恋するオスが進化する

宮竹貴久

著者は、進化生物学者。主に昆虫を材料とした行動生態学・進化生物学を研究している。動物行動学でも特に面白いのはオスメスの間に見られるものであるが、高校生物ではあまり扱われない。この本はその面白さを凝縮して伝えている。 (いずもり・よう:イラスト/メディアファクトリー新書)


すごい進化 「一見すると不合理」の謎を解く

鈴木紀之

異種のメスを選ぶテントウムシのオスや、ハチに似ていない、不完全な擬態をするアブなどが登場。一見不合理に見える生物たちの生態から、進化の秘密に迫る。進化生態学の基本が解説されている。 (中公新書)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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