感性情報学

人の感じ方を理解し、心地の良さを見える化する。それが、感性工学!


吉田宏昭 先生

信州大学 繊維学部 先進繊維・感性工学科 感性工学コース

どんなことを研究していますか?

「感性」という言葉を聞いたことありますか。皆さんが授業中に座る椅子は座りやすいですか。毎日履いているシューズの履き心地はどうですか。椅子やシューズに触れることによって人は様々なことを感じ取り、そのやりとりから感性が生じています。感性は、関係性を作り出す能力、あるいは、やりとりの能力だといえます。

あいまいで主観的な感性を捉える感性工学

image

感性は、個人個人によって感じ方が異なり、ありまいで主観的です。そこで登場するのが、感性工学です。私の専門分野は感性情報学の一分野である感性工学です。このあいまいな感性に対して工学的手法でアプローチし、客観的に評価します。例えば、椅子に着座した際に、アンケートで座り心地を調査したり、座り直すときの筋活動などを計測したりします。これらのデータと椅子の設計パラメータ(値)との関連を調査すると、座り心地の良い椅子の設計パラメータを知ることができます。感性工学的手法を活用すると、人に感動を与えるようなモノを作ることが可能となるのです。

現在は、寝る、座る、歩く、食べるとった日常生活行動や、メガネの着装感、登山用ザックの背負い心地、衣服の着用感などを対象として、様々なことに興味を持って研究しています。

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種→多くの学生は、自動車系やアパレル関係の製造業に就職しています。最近では、IT企業などの情報系に就職する学生も増えています。
  • ●主な職種→卒業生の多くは開発職に就いています。
分野はどう活かされる?

感性工学コースはいわゆるゼネラリストの育成を目指しています。ものづくり工程を川の流れに例えると、企画・設計が川上、生産・製造が川中、マーケティング・サービスが川下になります。感性工学コースでは川上から川下という広範囲に渡る授業科目を開講しています。また、他大学にはない「感性」に関する知識を有しているため、ものづくりを俯瞰的観点から見つめることができます。そのため、開発・企画といった職種に就くことができるのだと思います。

先生から、ひとこと

「Human, the weakest link」というセキュリティ分野で使われる言葉があります。システムという輪の中で、人間が最も弱いという意味です。わかりやすい例でいえば、どんなにバットが良くても、プレーヤーがアマチュアなら、ヒットを打つことすら難しいということです。人間についてよく理解する、つまり、人間研究が一番大事だということです。その中でも、人間の感性が重要です。皆さんも「あ、これいいなぁ」と感性が刺激されたら、つい買ってしまうでしょう。「心の仕組みを知り、心の形を求め、心の喜ぶモノをつくる」、これが感性工学の理念です。感性工学について、共に学んでいきませんか。

先生の学部・学科はどんなとこ

信州大学繊維学部の特徴は、「繊維」という名のついたオンリーワンの学部です。その中でも、日本で唯一の「感性工学」を扱う教育コースです。他では学ぶことができない学問がここにあります。具体的には、3年生までは感性工学の基礎について学び、4年生では研究手法について学び、そして、多くの学生は修士課程まで進学しますが、修士課程では自ら研究課題を見つけ、解決できるように、研究指導しています。

また、感性工学コース独自で運動会などのイベントを開催しており、同級生との横のつながりだけでなく、先輩・後輩といった縦のつながりも強いのが感性工学コースの強みです。このつながりは卒業後も持続しており、各地方でOB会が開かれています。さらに、OB・OGが就職した企業と共同研究することがあります。就職しても感性工学コースで学んだことを活用し、ものづくりをしている姿に感動を覚えます。

image

授業にて

先生の研究に挑戦しよう

科学は、大雑把にいうと、「観察」と「実験」から成ります。ですから、日常の気づきから研究は始まります。例えば、長野県では、日常生活の中でも長靴を履いている人が多いです。でも、長靴は決して履きやすいものではありません。そこで、少しでも快適な履き心地を提供したいと考え、企業との共同研究で長靴用インソールを開発しました。

このように、人はどのように食べたり、歩いたり、寝たりしているのかなど、普段の何気ない動作に興味を持つだけで研究テーマになります。ちょっとしたことでも気にかけるようになると、日常生活も楽しくなります。

興味がわいたら~先生おすすめ本

「買いたい!」のスイッチを押す方法

小阪裕司

題名の通り、消費者の心と行動を読み解き、「いかに買いたい」を創り出すか解説。人には、「買いたいか・買いたくないか」という第1のハードルと、「買えるか・買えないか」という第2のハードルがあるのだそうです。第1のハードルは情動であり、ここをいかに刺激するかで購買行動が変化します。この情動に刺激を与えるのがまさに感性情報であり、この感性情報が購買行動を変えます。マーケティングという観点から「感性」を見つめる良き著書なので、ぜひ読んでみてください。 (角川新書)


ライト、ついてますか

D.C.ゴース、G.M.ワインバーグ

例えば、椅子を作りたいと思っても、誰を対象にするのか、利用者が何を求めているかわからないと、利用者に適した椅子を作ることはできません。この本は最初に「何が問題か?」と我々に問いかけます。何事も研究を行う際には、誰の、何が問題で何を解決すればよいのか、しっかりと見極める必要があります。いろいろと考えさせられる本です。 (木村泉:訳/共立出版)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

みらいぶっくへ ようこそ ふとした本との出会いやあなたの関心から学問・大学をみつけるサイトです。
TOPページへ