財政・公共経済

日本型雇用と少子化の関係性を多面的な調査で探る


藤野敦子 先生

京都産業大学 現代社会学部 現代社会学科

どんなことを研究していますか?

私はこれまで、一貫して少子化について研究をしてきました。日本では1990年代に少子化対策が始まりました。それから30年くらい経ちましたが、状況はより深刻になっています。子どもを持ちたいと思っている人が持てない状況がずっと続いていますが、その原因がどこにあるのかについて幅広い観点から研究しています。これまでは、男性の家事育児に関与しないため第二子出生が抑制されることや、非正規で働く人たちがなかなか子どもを持てないことをフランスとの比較で研究してきましたが、最近は転勤制度に研究のテーマを移しています。固定したジェンダー(性)の役割を前提にしているといわれる、日本型の雇用制度と少子化との関係に注目しています。

1980年代頃までは、正社員の既婚男性に転勤命令が出ると、妻も子どももそろってついて行くことが普通でした。企業側が、既婚者の転勤の場合に「家族帯同」を原則としているところが多かったからです。ところが1990年代以降、男性の単身赴任という選択が増えてきました。子どもの教育や親の介護のこと、持ち家があること、そして妻も働いていることなど、家庭の事情により単身赴任希望者が増え、企業もそれに応じ始めました。他方その結果として、育児や家事の重荷がすべて妻にのしかかってくるようになりました。そもそも企業都合での転勤制度は、日本特有の慣習で、正社員の誰にでも、こんなに頻繁な転勤のある国は世界に例を見ません。こうしたことも少子化の原因の一つになっているのではないかと考えています。

こういった研究のために、独自のアンケート調査、インタビュー調査を実施し、社会科学の分野で進展してきた多面的な分析手法を使っています。また、自分のフィールドである、フランス等、EU諸国との国際比較を行っています。

日本型雇用にメスを

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注目すべきは、今なお存続している日本型雇用制度です。この雇用制度は、男性が働き、女性が家を守るという価値観(家族像)に根差しているため、少子化問題をはじめ、女性の活躍推進が進まない、非正規雇用、保育士や介護士の低賃金問題などを引き起こす原因になっていると考えています。

日本においてもようやく、働き方改革、昨今のリモートワークの進展などから、日本型雇用にメスが入ろうとしています。私は、これら制度のどこが問題なのか、またどんな風に変革していくべきなのかを具体的に検討し、提言していきたいと考えています。性別や年齢、国籍に関わらない新たな雇用制度にパラダイムシフトしていけば、誰もが働きやすい社会になり、多くの社会問題が解決すると思われます。

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台湾大学での国際学会での発表

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→教員、公務員(国税専門官、家庭裁判所調査官、市役所など)、一般企業
分野はどう活かされる?

中学校で社会科を教えたり、地方自治体職員として勤務する中で、学んだことを活かしています。

先生から、ひとこと

近年、エビデンス(証拠)に基づいた政策提言が重要になってきています。この背景の一つに、ビッグデータに触れることが可能になってきたことが挙げられます。そのような意味で、中学・高校のうちから数理統計学の分野に触れておくことが重要になってくるでしょう。また同時に、社会科学の分野では、数量的なデータでは明らかにならない事実も多いため、現地での調査もよく実施されます。多くの人達と協働することのできる協働性を身につけておくことが重要になるでしょう。

先生の学部・学科はどんなとこ

私は、2004年から2017年3月までは京都産業大学の経済学部教員をしていました。そのあとは、現代社会学部の設置にたずさわり、2017年4月以降、現代社会学部の教員となっています。私の労働経済学・人口学分野は家族やジェンダーなど社会学の専門領域とも関わっています。

社会学は、他の学問分野とも接点が多いですが、他の学問分野がカバーしてこなかった領域にも踏み込んでいくことのできる、面白い学問です。私の所属する現代社会学部には、そのような理由で社会科学系・人文科学系の専門家のみならず自然科学系の専門家もいます。自分の専門を軸としながらも、今まで研究がなされていない新しい分野への研究意欲が旺盛な学部です。

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フランス家族計画協会でのインタビュー調査

先生の研究に挑戦しよう

家族や身近な人に、これまでの人生(ライフコース)についてインタビューを行い、人生の年表を作成するとともに、個人の人生における様々な選択(就職・結婚・出産・転勤・退職・再就職など)がどのようになされたのか、詳しく聞き取ってみよう。その選択に日本の雇用制度・企業風土、社会制度が影響していないか、そこに課題や問題点がないかなどを検討してみよう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

不思議フランス 魅惑の謎

藤野敦子

日本とフランスの違いを、恋愛・仕事・家庭・食など身近なテーマで面白おかしく解説しつつ、その理由を歴史的・文化的・制度的観点から真面目に解き明かす。フランスの「不思議」を突き詰めると、日本社会の課題が見えてくる。本書の学問としての側面は、一つは、社会科学の調査方法を用い、仏・日で実施したアンケート調査やインタビュー調査から得られた客観的なデータを基に執筆されている点。もう一つは、テーマに関連した「政策・制度」に触れている点。フランスが、出生率のチャンピオンと言われるほど出生率が回復したこと、女性が活躍する国になったことなどにつながったフランスの制度・政策を紹介している。
(春風社)


レ・ミゼラブル

ヴィクトル・ユーゴー

時はフランス革命、パリの民衆の悲惨な生活と人の愛を描いた不朽の名作小説。現在のフランスの制度・政策の根底にある理念や価値観を知ることができる。フランスはEUの中心であることから、現在のEU諸国の理念や価値観とも共通する部分が多く、今を理解するのにも役立つだろう。 (豊島与志雄:訳/岩波文庫)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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