米中がお互いに高い関税を掛けあう貿易戦争、日本が韓国に行った貿易手続き上の優遇措置「ホワイト国」の解除など、国際貿易のニュースは絶えることがありません。経済のグローバル化が進み、国際的な依存関係が深まる中で、国々がどのような経済政策を採ればよいかという問題に必要な知見を与えてくれるのが、国際経済学という学問です。一言で言えば、ヒト・モノ・カネ・サービスの国境を越えた国際的な経済活動を分析対象とする学問分野です。
私はこの分野で、ヒト・モノ・サービスの越境移動を扱う国際貿易論に関する研究をしています。例えば、関税以外の手段で自由な貿易を妨げる非関税障壁や加盟国間で関税を撤廃するような地域経済統合などが研究対象です。また、貿易や貿易政策が環境にどのような影響を及ぼすのか、逆に、地球温暖化対策のような環境政策が、貿易にどのような影響を及ぼすのかも研究してきました。最近では、デジタルエコノミーの進展に興味があります。
経済社会のデジタル化が国際経済に与える影響とは?
インターネットなどのICT(情報通信技術)の発達によって、いわゆる「デジタル貿易」が急速に拡大しています。デジタル貿易の明確な定義はありませんが、通常はICTを活用した越境取引全般を指すと考えられます。そこには、音楽や動画の配信サービスといった越境電子商取引をはじめ、データなどの電子情報の越境移動なども含まれます。このようなデジタル貿易によって国際経済取引や国際分業の形態は大きな影響を受けつつあります。
例えば、デジタル貿易では、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)といったいわゆる巨大プラットフォーマーが大きな影響力を持っています。プラットフォーマーとは、ICTを使った各種サービスの基盤となるシステムやサービスを提供する企業です。プラットフォーマーは、膨大な情報を整理して提供したり、利用者間のコミュニケーションを円滑にしたりなど、その利用者に大きな便益をもたらしています。他方で、プラットフォーマーが巨大化し、その競争優位性が固定されて競争が排除されることに対する危惧もあります。デジタルエコノミーの進展が国際分業や海外直接投資にどのように影響を与え、経済のグローバル化をどのように変化させるのかに注目しています。
一般的な傾向は?
- 就職先は幅広い業種にわたっていますが、政府系を含む金融機関や商社が比較的多いです。公務員や大学教員になった人もいます。
分野はどう活かされる?
海外駐在等も含めてグローバルに活躍しているOB・OGが多数います。ゼミで養われたグローバルな感覚が役に立っているのはないでしょうか。
経済学は経済社会の文法です。言語の場合、正しい文法を理解していなくてもある程度は話せますが、正確に話し、論理的な文章を書くには、文法は欠かせません。同様に、経済学を知らなくても生きていけますが、経済学の知識がなくては経済社会の動きを正確に理解し、論理的に説明することはできないのです。国際経済学を学べば、グローバル経済を生きていく上で大きなアドバンテージとなるでしょう。経済学の知識すべてがすぐに役に立つことはないかもしれませんが、経済学的な思考や視点は変化の激しい経済社会を生き抜く際に手助けとなってくれると思います。
大学の「大」の字を分解すると、「一」と「人」になります。つまり、大学は「一人で学ぶ」場だと言っていた教授がいました。ゼミに入れば指導教授はいますが、我々はあくまでもサポート役です。サポート役の力を大いに活用しながら、自分自身でいろいろなことを研究し、自ら道を切り開いていく姿勢を持ってほしいと思います。
一橋大学経済学部の特徴は以下の通りです。
・経済学の入門・基礎・発展といったように、積み上げ式のカリキュラムによって、スムーズに経済学が学べるようになっています。
・ゼミが必修で、きめ細かな指導をしています。他大学でもゼミはありますが、必修でないケースがほとんどです。また、他大学よりも比較的少人数のゼミとなっています。
・海外の大学で博士号を取得し、海外で研究・教育に従事したことがある教員が多数います。
・英語での講義が多く、留学の機会も充実しています。留学をしても、4年で卒業が可能です。私のゼミからは、大学の交換留学制度などを利用して、毎年数名が10ヶ月程度留学しています。一橋の中では留学に行く人が最も多いゼミの一つです。
・通常は取得に4年かかる経済学学士号と、通常は取得に2年かかる修士号を、5年間で取得できるプログラムを用意しています。