原子・分子・量子エレクトロニクス

星間分子雲はなぜできたかを調べ、星の誕生の秘密を探る


岡田邦宏 先生

上智大学 理工学部 物質生命理工学科/理工学研究科 理工学専攻

どんなことを研究していますか?

宇宙に漂うガスとチリからなる雲は、自己重力で収縮していき、やがて新しい恒星ができ、その周りに惑星が作られます。この雲は、星間分子雲と呼ばれています。つまり星間分子雲は星形成の母体です。星間分子雲は極低温の分子の集合体で、主として水素分子ガスからなり、一酸化炭素など多量の星間分子を含んでいます。その中では様々な化学反応が起きていると考えられています。分子雲がどのような進化過程を経ていくのかを知るためには、個々の反応が起こる反応速度を知り、それに基づいた理論計算の結果と天文観測の比較を行うことが必要です。

独自開発した装置で反応速度を測る

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原子・分子・量子エレクトロニクスの分野の中で私は、星間分子雲におけるイオンと分子による衝突で起こるイオン―分子反応の研究をしています。分子雲は、低温・低密度環境であること、また、観測技術の進歩によって星間分子の大部分を水素分子ガスが占め、それ以外の星間分子が多数存在することがわかってきています。この星間分子がどのように生成されたのか、それを知るために、イオンのレーザー冷却法と私たちが開発した気相低温イオン―分子反応測定装置を使って、分子雲の進化を知るために必要となる反応速度データの測定を目標に研究を進めています。

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実験室の様子。研究室で独自に開発した実験装置を使って、宇宙空間で起こる化学反応の研究を行っています。

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→製造業、情報通信業、教育
  • ●主な職種は→技術、研究、開発、事務、教育
分野はどう活かされる?

システムエンジニア、教育、研究、開発

先生の学部・学科はどんなとこ

上智大学の建学理念である「叡智が世界をつなぐ」をもとに、高い国際性を重視した教育を実践しています。一つのキャンパスに人文科学、社会科学系の学部が配置されており、専門性だけでなく人間性、教養、語学力といった総合的な人間力を醸成する場が提供されていることも本学の大きな特徴となっています。

物質生命理工学科では、物理学、化学、生物学、環境科学等の専門性を重視しつつ、それらを包括的・複合的に融合することにより、物理・化学・生命現象における原子・分子から高分子・生物にわたる物質の基礎を理解し、新たな物質の創成・技術開発を通して人間・社会に貢献できる人材の養成を目的としており、自然と融合した物質観と生命観、及び広い視野に基づく「複合知」を身につけた、人間と社会に貢献できる国際競争力のある科学者、技術者育成を実践しています。

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研究室のセミナー風景

興味がわいたら~先生おすすめ本

現代物理学の謎は原子時計で解決される!

梶田雅稔

原子時計は、原子や分子のスペクトル線の周波数標準に基づき、極めて正確な時間を刻む時計である。高精度のものは3000万年に1秒しか狂わないという。原子時計は、NTTの時報、GPS、天体観測などに幅広く活用されている。この本は、原子時計の精密さ・正確さを利用することによって、巨大な実験装置を用いずとも大学の実験室レベルで物理学の基本原理の研究が可能であることを示してくれる。例えば、原子や分子の素となる陽子や電子の質量が不変なものかどうか実ははっきりとはわかっていないといわれているが、その検証に原子時計が使えるのだ。 (風詠社)


1秒って誰が決めるの? 日時計から光格子時計まで

安田正美

人類は「時」をどのように計っていたか。日時計にはじまり、暦、振り子時計、機械と電気が融合したクオーツ時計、さらに原子時計と著しく発展してきた。著者は、産業技術総合研究所で、イッテルビウム171光格子時計という、次世代光周波数標準としての光格子時計の研究・開発を行っている。なんと137億年動かし続けても1秒以下の誤差という。この本は、時計の歴史と最先端の研究がわかりやすく書かれている。 (ちくまプリマー新書)


星くずたちの記憶 銀河から太陽系への物語

橘省吾

地球に飛来する隕石や彗星のチリ、月の石、そして「はやぶさ」や「はやぶさ2」が持ち帰ってきた小惑星のかけらは、太陽系や地球がいかにして出来上がってきたのか、その進化の歴史を私達にもたらしてくれます。宇宙化学の第一線で活躍している著者が、太陽系の誕生と進化の記憶を留めるこれらの標本からいかにしてそれらのなぞを紐解いていけばいいのか、最新の知見をもとにわかりやすく解説してくれています。宇宙に興味を持っている高校生の皆さんにぜひ読んでもらいたい1冊です。 (岩波科学ライブラリー)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。